『エピローグ・小さき幸せ』















 夢を見て居た。

 違う、これは夢ではない

 厳格な石造りの廊下。そこを横島は見た事があった。

「どうやら、終わったようだな」

 声に振り替えるとそこには夢の中で出会ったこともある死徒が立っていた。

 初めに出会った黒き少女、アルトルージュ。

「よう、アルトルージュ。今日も綺麗だな」

 横島の軽口に微笑むと、彼女はゆっくりと歩き出す。

 それに従うように歩いていると彼女は突然、口を開いた。

「妹は、アルクェイドは元気でやっていたか?」

「元気も元気だ。ロアをぶっ殺して、俺の前からは居なくなったけど、普通に元気に飛び跳ねてるんじゃないか」

「そうか。それは良かった」

 暖炉が付いた豪華な部屋。高級なペルシャ絨毯であろう上にとてつもなく大きな犬が寝そべっている。

 片目が軽く開き、横島の姿を認めたが敵ではないと判断すると大きな欠伸をして、再び眠りにつく。

 馬鹿にされたのは間違いない。

「こ、この犬コロ」

「プライミッツマーダーに喧嘩を仕掛けるか。面白いな」

「あ、すんませんでした。私めは隅の方を通らせていただきますんで、お願いします」

 ヘコへコと礼をすると部屋の隅を、それこそ後ろに回らないように通っていく。

 その様子にアルトルージュは面白いものを見ているように微笑んでいた。

「ははは、本当に面白いな」

「なんで、そんな危険な動物を飼っているんですか。貴方は!!」

「それは私だからだ」

 言葉遊び。それに横島はため息をつく。

 そこには朱い月が覗いていた。

「文珠使い、私に聞きたい事があるのではないか」

「まず、何で俺はここに来たんだ?」

「それは恐らく、アレの影響だろうよ」

 アルトルージュが示したもの。それは朱い月だった。

「文珠使い。お前は世界の真理を見なかったか。魔術師が追い求める『』をお前は見たはずだ」

「魔術師ってが追い求めるって何だよ。その前に『』って」

「『』とはアカシックレコードとも呼ばれる、全ての現象を記録する一つの演算機のようなものだ」

「演算器? そう言えば」

 横島はアシュタロスが作った、横島の記憶の中で最悪な物を思い出す。

「もしかして、コスモプロセッサなのか?」

「お前はその中で『』を感じた。魔術師が到達しようとする位置よりも、遥かに深い所でお前は感じたのだ」

「待て待て待て!!!!」

 横島は大声を上げると、何事かと言うような感じで犬が顔を上げる

「何でもない、プライミッツ。少しだけこの馬鹿が取り乱しただけだ」

「ば、馬鹿呼ばわり……ひどい……」

「ん、違うのか。間抜け」

 アルトルージュの言葉には、情け容赦が無かった。

 横島は一度落ち込むが、持ち前の立ち直りの速さで立ち上がる

「じゃあ、美神さんはどうなんだ。あの人もコスモプロセッサに取り込まれていたんだぞ」

「そいつとお前の見た場所が違うのだろう。お前はその時、何かを願ったはずだ。何かを行ったはずだ。それが原因だよ」

 アシュタロスの前で魂の結晶を破壊した。

 そして、その後に理不尽さを嘆き、そして願った。もうこんな事が無いようにと。

 起きるのであれば、もう繰り返させたりしないと。

「ま、まさか、俺のせいなのか?」

「心当たりがあったようだな」

「ちょっと待て、それが全部正しいとする。だけど、何故過去に遡ってまでお前の所に来たんだ?」

アルトルージュはそれに首をかしげた

「横島、月と言うのは異次元への空間のゲートだそうだ。最初は分からないだろうが、満月のときワラキアの夜は現れる。お前がロアを倒したのはいつだ?」

「……満月だった」

 横島はようやく共通点を見つめた。

 何故精神体だけなのか? そう言った疑問は多い。

 だけど、何となく解答の糸口はつかめた。

「つまりは何らかの原因で原始風水盤と同じ原理が働いたってことか。道しるべになったのはコスモプロセッサ。
 だけど、疑問が残らないわけじゃないぜ」

「ならば疑問に答えて、この夜は終わりにするか」

 アルトルージュはゆっくりとワインのグラスを傾ける。いつの間に手に持っていたのだろう。

 彼女は優雅に赤ワインを嗜むと、横島に顔を向けた。

「何故、お前なんだ。ブリュンスタッド城じゃなくても良かったはずだ」

「因果論という言葉を知ってるか」

「因果論……知らないな。なんだ、そりゃ」

 その言葉にアルトルージュは微笑む

「お前の物語は終わっていたかもしれない。だが、始まったのだ。何かのきっかけで、何かの状態で。
 世界は矛盾を嫌うと言う言葉は知っているか?」

「ああ、それは聞いた事がある。歴史の改変を行ったとしても大まかな流れは変えられないと言う事だろ?」

「違うな。ここはアルクェイド・ブリュンスタッドの物語の始まりの場所だったと言う事さ」

「物語の始まりの場所?」

「分からなくて当然だ。物語がどこから始まるのか、そんな事は誰にも分からない事なのだ
 もしかしたら、賭け場で大当たりする事が物語の始まりかもしれない。大人から子供になった事が物語の始まりだったかもしれない。
 物語の始まりなど、十人十色。どこで始まり、どこで終わるなんかはその人間次第だ」

アルトルージュの言葉に横島は頭を抱える

「すまん、俺は頭が馬鹿だから全然ついてゆけん」

「簡単に噛み砕いて言えば、お前は何かに出会い、何かを救って終わった。それだけの話なのさ」

「それじゃ、俺が過去に飛んだ理由にはならないんだけどな」

「コスモプロセッサの道しるべ、物語の始まり、お前の何かを救いたいと言う思い。
 三つが組み合わさって、私とお前を引き合わせた。お前の物語の始まりは何だった?」

 横島はそれに詰まる。横島とアルトルージュの出会い、それはルシオラの幻影を見せられての事。

 ここに誘導されたのか?

 横島は一瞬考えたが、苦笑した。そんなのを考えるのはキャラクターじゃない。

 ここでアルトルージュと出会い、気になり、それが因果となり、この場所に招かれ続けた。

 そして、アルクェイドに出会い、志貴と出会い、ネロと戦い、ロアと戦い、アルクェイドと別れた。

「分かったか。そして、横島。お前はこの物語を終わらせたのだ」

 アルトルージュの言葉に横島は納得した。

 出会いに始まりと終わりがあるように、この場所に来るのはこれで終わりという事だろう。

 ゆっくりと周りが暗くなっていく中で。薄くなるアルトルージュは寂しげに呟いた

「始まりには終わりがあるように、お前と私の因果にも終わりというものが存在する」

 横島は何か声を出そうとするが、何も声が出ない。

 暗闇となり、消える瞬間、アルトルージュは小さく呟いた。

「さらばだ、横島忠夫……また、どこかで会えたら、また会おう」

 そして、暗闇に包まれた空間から横島は引き戻されるような感覚があった






 ロアが死んで、10日が経った。すでに三咲町は平穏を取り戻しつつある。

 オカルトGメンは3人のGSの確保のあと、この町を離れていった。

 遠野家に繋がる連中ではなかったが、遠野家からの援護要請で派遣した旧家のGS。

 彼らの対応、処分などに忙しい毎日を送っている。

 そして、GSギルドからは横島に撤退の要請が出ていた。仕事は終わったのだから、報告に来い。そういう話だ。

 言われなくても帰る。

 横島は電話越しで、全く話が通じない事務官にため息をついたのは昨日の話。




 その横島忠夫は現在、遠野家のリビングに座って、目の前にいる秋葉と一緒にモーニングティーを飲んでいた。

「……横島さん、何やってるんですか?」

「ん、見れば分かるだろ。朝食食って、お前が起きてくるのを待ってた。志貴、元気そうで何よりだ」

 横島は笑うと、志貴も笑みを見せる。

「横島さんも元気そうでなによりです」

「俺は元気だぞ。まあ、俺の用件はお前と秋葉さんの両方に合ったんだ」

「え、秋葉に?」

「まあ、色々複雑な事はあるけどだ。オカルトGメンは遠野家の本家に関しては関与しない事への厳重注意で終わるようだって事を伝えたんだ」

「遠野本家? という事は」

「代わりに少し行動しすぎた連中に関しては遠野家は口出し無用と言う話。
 そちらがどんなに遠野家の責任にしても遠野は知らぬ存ぜぬで通させる。まあ、オカルトGメンも今の段階では出来ないだろうし」

 横島の言葉に志貴は首を傾げる。

 横島は新聞を広げると、そこには大々的にオカルトGメンが三咲から消えた後に事件が起きた事についてと、急に関与した事で叩く社説が出ている。

「しばらくは対応に躍起でこちらに手を回す時間は無い。と、いう事です。秋葉さん」

「それはGSギルドは見逃すと?」

「その辺りは分からないけど、GS協会は叩かれちゃいけない部分もあるから、何もしないんじゃないか?」

「そうですか」

 秋葉は紅茶を飲み終えると立ち上がった。

「それでは、私はこれで。兄さん、遅刻されないように。横島さんもお気をつけて」

「秋葉さんもな。志貴との結婚式があるとしたら、仕事をキャンセルしても出させてもらうよ」

「なっ!?」

 秋葉が一瞬目を丸くする表情に横島が笑う。

 彼女から威圧感的な物が出ていたが、それは一瞬の事。横島のペースに巻き込まれないように大きく息を吸うと、居間から出ていった。

 侍女である割烹着の少女が秋葉の後を追うと、メイド服姿の少女だけになる。

「横島さん、俺に話って?」

「これを渡しておこう」

 横島は書類の封筒を渡す。それは分厚く重い。

「これは何ですか?」

「七夜の遺産だよ。七夜が持っていた実家や土地があった場所周辺の土地の権利書やらだな」

「こ、こんなもの受け取れませんよ」

「いけ好かない西条の奴がこちらに投げてよこしたんだよ。何が売れない物件があるから君の報酬として良いよ、だよ」

 横島は言いながらも口元は緩んでいる。

「ったく、その後に何故か税務署の連中がホテルに押しかけてきやがって、税金まで払わされちった。しかも、5年分だぞ?」

 ため息をつくと横島が志貴に微笑む。

「俺だって忙しいんだ。使い道がない土地と税金分。志貴への報酬額として、全部手続きは済ませておいた。後は秋葉さんと勝手にやってくれ」

「俺への報酬?」

「正式な報酬分だろ。GSは金を払わないと、脱税とか労働基準法違反とか危ないんだよ。西条といつの間にか出会ってやがって」

 横島は苦笑をすると、立ち上がった。

「そろそろ、学校に行く時間だろ? 朝食を取ったら、行こうぜ」

 志貴は時間を見るが少し早い。だけど、横島の言葉に何かあるんだろう。

 手早く準備された朝食を食べると、いつもの時間よりも少し早く学校へと向かう道へと出た。




「横島さんはまだ居たんですね」

「と言うか、明日にはこっちを離れる。聖堂教会とのGSギルド、オカルトGメンの会合とかも終わったしな」

 横島は思い出す。圧倒的な実力を持つ人々、それが横島たちGSとオカルトGメンの前に現れた事を。

 魔神大戦に参加した人間のみが会合に参加。

 聖堂教会とのGSギルドの窓口。それを聖堂教会は横島を指定した。

 GSギルド、オカルトGメンはそれを了承し、一気に決まってしまった。横島の意見、一つも取り上げられずに。

 代わりにネロ・カオス、ミハイル・ロア・バルダムヨォンの事件を結果だけ除いて隠ぺいした。

 三咲事件はネロ・カオスがとあるGSを謀殺するためにホテルを奇襲し、翌日に横島忠夫が倒した事。

 ミハイル・ロア・バルダムヨォンは三咲町の吸血鬼殺人事件の主犯で、聖堂教会と横島が倒した。

 この内容で最終的な磨り合わせが行われている。

「でも、事件が終わった途端にこんなに静かになるなんて思いませんでした」

「まあな、激震はこれからだぞ。日本政府の対応遅れ、三咲町の対応遅れ。全てが後手後手に回ってたからな」

 横島はため息をつく。

 何かあれば神魔が何とかしてくれる。そんな思いがGSギルドやオカルトGメンにあったのは事実だ。

 だからこそ、重い腰に付け入られ、三咲事件で実質的に動いたのは横島だけ。

 それも個人行動という事になっている。

 だが、GSギルドも組織だ。個人行動に罰則を与えないわけにはいかない。

 死徒の陣営、もしくは派閥との接触する事。無茶ともいえるこの事が邪に与えられた罰だった。

「これから、弓塚さんはどうなるんです?」

「どうなるって?」

「えっ?」

「死徒に襲われたわけないだろ。たまたま、霊能力に爆発的に開花しちゃった女の子だろ?
 それにびっくりして行方不明になったんじゃなかったか?」

 志貴は横島の言っている事が一瞬理解出来なかったが、それに納得した。

「まあ、聖堂教会も乗ってくれてるし、今のところは問題ない。2年後か3年後に、なるかもしれないけどな」

 提案は横島。相手は埋葬機関の長、ナルバレック。

 その火花が散る中で、半分横島はビビりながら、その事を押し通した。

 急に霊能力に目覚めた人間で、GSが管理しているのであれば、我々としては問題ないというお墨付きまで貰っている。

「だから、とりあえずは弓塚さんに関しては問題ない。とりあえずの話だけどな」

「でも、それは」

「大丈夫だって」

 志貴が何かを言おうとするが自信ありげに止める。

 何か証拠があるのだろうが、内緒にしているほうが面白いと言う感じだった。

 短い期間だが、そんな顔をしている横島は裏付けがあると理解した志貴はそれ以上のことは言わないことにした。

 屋敷から長い道を下ると、そこには弓塚さつきが立っている。

「弓塚さん、おはよう。やっぱり笑っている方が可愛いぜ」

 横島の言葉に弓塚が一礼する。

「横島さん、おはようございます。ここで待ち合わせって話でしたけど、遠野君もですか?」

「遠野も居たほうがおもしろいだろ?」

 横島は言うと制服姿の弓塚を上から下まで見る。

「日の光は大丈夫そうかな?」

「はい。ちょっと眩暈はしますけど、日常生活は余り問題ないです。カラーコンタクトで目の色も変えられますし」

「そっか。何かあったら連絡くれれば、すぐに対応する。携帯電話番号とかメールアドレスとかは渡した名刺にあるはずだから」

 横島は言うと通学路を学校のほうに歩いていく。

「横島さん、今日はどんな御用ですか?」

「ん、お別れの挨拶ってところだな。俺は今日の夕方に東京に戻るからさ。
 もう三咲に来ることはないと思って、念のために志貴や弓塚さんの様子を見て、何かあったら聞こうかなと」

 横島は言って、そこで止める。

 二人並んで歩く様子に横島は目を閉じて、すぐに微笑んだ。

「だけど、何も問題なさそうだった。後は遠野家と七夜家の関係ぐらいなんだけど、そこは志貴が決めることだから」

 二人並んで歩く様子。それは自分が守りたかった日常そのものだ。

 自分は何も守れなかった。彼女は死徒として、この世界を生きていく事になる。

 それは先々は厳しい事になるかもしれない。その時に手助け出来るとも限らない。

 でも、今現在でここにある現実は、間違えていなかった。胸を張って言うことが出来る。

 だからこそ、彼女にも会える。






 あと学校まで少し。そこで横島は立ち止った。

「横島さん、どうしたんですか?」

 志貴は尋ねると横島は苦笑する。

「いや、全く。俺もここで待ち合わせしたんだけど、少し早いかなと思ったんだよ。だけど、もう来てた」

 横島は苦笑する。志貴はその言葉の意味が分からず、視線を横島が見ている方向に向ける。

 そこには、金髪の女性が立っていた。

「やっほー、志貴もさつきも、面白い顔をしてどうしたの?」

「アルクェイド、お前」

「びっくりした、志貴? 横島に教えないでって言ったんだ。私も少し考えたから」

 アルクェイドが笑いながら、歩いてくる。

「横島さん、これって」

「アルクェイドは精霊みたいなもんだって。あの時だって、死んじゃいなかったんだよ。それを黙ってたけどな」

 その言葉に志貴がアルクェイドを見つめる。

「私ね、もう少し人間が見てみたくなったの。楽しいときに笑えるって良いことよね」

「横島さんも酷いな。生きてるなら生きてるって言ってくれれば良かったのに」

 その様子に志貴は苦笑すると、弓塚も笑った。

「さつきも大丈夫みたいね。良かった」

「アルクェイド、何で」

「ロアが倒れた時に力が戻ってきたの。だから、再生が出来たんだよ」

「ははは、そっか。良かった、アルクェイドが無事で」

 志貴は安心したように笑う。

 ベストではないけどグッドな結果。そこに落ち着いたのは僥倖なのかもしれない。

 横島は苦笑すると、ため息をついた。

「俺から提案があるんだけど、良いか?」

 志貴と弓塚が横島に視線を向ける。横島は良い笑顔で三人の視線を迎え入れると

「このまま、遊びに行こう。ネロを倒した祝賀会もあるし、ロアを倒した祝賀会もある」

「よ、横島さん。それは」

「大丈夫さ。一日ぐらい、休んだってどうにかなるもんだって。
 学校にはオカルトGメンからの事情聴取だって言っておく。弓塚さんもね」

「そ、それは職権乱用て言わないかな?」

 弓塚の言葉に横島は笑う。

「俺は職権乱用なんかしてないぞ。アルクェイドを交えて、事情聴取してるんだ。文句言われる筋合いなんかあるか」

「いや、そういう問題じゃなくて」

「分かった。じゃあ、弓塚さんは行かないんだな。志貴、アルクェイドと一緒に何処か行こうか。俺は昼過ぎに上がるから」

「ダメ、それは絶対にダメ!!」

 弓塚の言葉に横島が意地悪く笑う様子に志貴は呆れたようにため息を吐いた。

「志貴、無駄な事だと思ってる?」

「いや、そんなわけじゃないけどさ。横島さんも子供っぽいなって」

 志貴は苦笑するとアルクェイドは微笑む。

「あはは、それは言えてるかも」

 アルクェイドの笑い声に志貴は苦笑した。

 それを見て、アルクェイドが志貴の手を引いて横島達の後を追う。

「アルクェイド?」

「ほら、志貴。早くいかないと横島達が何処かに行っちゃうよ」

 アルクェイドは言うと、志貴の手を引いて横島達を追いかけていく。

 きっと、今日は楽しい時間になる。その予感に志貴も苦笑すると誘惑に負け、その後を走る事になった。






 夜、すでに深夜の時間になっている。

 すでに閉められた東京タワーの展望台に横島が一人、佇んでいた。

「ルシオラ、来たぞ」

 ポツリと呟いた言葉は、誰も居ない展望台に静かに響く。

 持ってきた缶コーヒーを開くと、横島はコーヒーに口をつけた。

「ちょっとだけ、長い戦いになったよ」

 しんみりと呟くとネオンの下を見つめる。

 深夜にもかかわらず、東京の眠りは遅い。

 この下にどれだけの人が働いているのだろう。横島は考えると目を閉じた。

「死徒、厄介な敵だったよ。下手したら魔族なんかより、圧倒的に嫌な敵かもな」

 溜息を吐く。

 魔神大戦、あれで色々と変わってしまった気がする。

 自分も変わった。少し煩悩が落ち着いたように見える。それが何故なのかは分からない。

 だけど、そのお蔭で……周りが少しだけ見れるようになった。そんな気がする。

「多分、俺はこんな事を続けるんだろうな。痛いのは嫌だし、誰かが死ぬのを見るのも嫌だけど、俺は戦うよ」

 横島は呟いた言葉に誰にも居ないのに照れる。

 だけど、それはきっと胸を張ってルシオラに報告できる。きっと。

「だから、色々な意味でお前にまた出会えるのは遅くなっちまうと思う。だけど」

 ネオンを見る。それだけで横島は落ち着く気がした。

 それは今ある平穏を守っているからだろう。横島は口元に笑みを浮かべると、コーヒーを飲み干す。

「俺の存在意義、それはルシオラから貰った命を、どれだけ周りにお裾分け出来るかだと思うんだ。
 それは不幸を減らす事だ。俺に出来るのは目につく範囲かも知れないけど、出来る所までやりたいと思うから。
 平穏って言う小さな幸せ。大切にしたい人はたくさんいる。だから、それを守ってあげたい。これが俺の目標なんだと思った」

 横島は微笑む。誰も居ないのに笑う光景は、誰か人が居れば気がくるっているとしか見えない。

 だが、横島には心のつっかえが取れたような明るい表情がそこにはあった。



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再度、完結にまで漕ぎつけられました。土方雄三です。 いや、参りました。久々に更新しようとしたら、ページが無いんですから。 自分の責任が大きいと言われれば、全く持ってその通りです。誠に申し訳ございません。 PC一新していた影響で、何もない処からの再スタートになりました。 文字化け、完全に潰れていた場所の修正。そう言ったので時間がかかってしまいました事、誠に申し訳ございません。 この語、GS+Fateになりますが、なんと……10話以降は無いと言う手持ちからの再生になっています。 ちょっと絶句状況からの更新スタートになってしまいますが、よろしくお願いします。 出来得る限りストーリーなどは変えない予定です。一つ一つが長いので分割してしまうかもしれませんが。。。 本年もよろしくお願いいたします。
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