オカルト、心霊現象。そう言った物がこの世界にはある。

 そんな現象が起こる中、とある魔神が反乱を起こした。

 ―――アシュタロス。この世界に恐怖をもたらした、恐怖を司る魔神。

 それをアシュタロスの反乱、又は魔神大戦という。

 事件の中で活躍をしたのはGS(ゴーストスイーパー)と呼ばれる職業の人間だった。

 それはオカルト世界におけるGSの地位を大きく上げる事に成功する。

 この戦いは、表の世界だけならず裏の世界にもデビューを飾る大きな一戦だった。

 そして、戦いは英雄を生んだ。

 名前とすれば日本最高のGS美神令子、前線指揮官として活躍したオカルトGメンの西条輝彦らが挙げられている。

 しかし、戦いには悲しみは存在し、それは魔神大戦も例外では無い。

 その中で悲劇の英雄と呼ばれた青年が居る。

 魔神大戦の英雄にして悲劇の英雄、横島忠夫。

 高校生ながら、同時に新人のGSながらも魔神大戦に参加。

 その魔神大戦を生き抜き、ある程度の名声を得た。

 彼は段々と成長していった。それは幾つもの事件を解決している事を考えると決して成長と言う言葉が間違いでは無い。

 結果、名声を高める結果となり、人の耳に入るようになったが、それはまた別の話だ。

 横島忠夫は有名だった。小竜姫との繋がりもあるが、斉天大聖に直接指導を受けた人間としてもである。

 その名声はもちろん、それは魔界や神界での話だ。神や魔ですら、横島の動きには注目して居ると言う事である。

 人間の間ではほとんど知られて居ない。知る必要が無いし、ごく一部の人間のみが知っていれば良い事だからだ。

 そして、それは逆に言えば実力があり過ぎる為に一部の人間に恐れられるということ。

 英雄は恐れられる。だけど、それ以上に彼の功績自体は素晴らしい物があった。

 しかし、運命は呼び寄せられる。まるで、磁石によって引き寄せられるかのように。

 横島が言うに、『もう絶対に関わらん』と言わせた事件。

 横島忠夫、年齢二十歳。生涯で最大の戦いはすでに目の前に来ていた




			『GS+Fate』




「ったく、何故誰もいないんだよ。最低二人は出る約束だろうが」

 大きな事務所机の上で青年は頭を抱えていた。

 東京の一等地、近くの国会議員の事務所と同じくらいの事務所を持つ彼は、この事務所の所長である。

『GS横島・伊達除霊事務所』

 現在は美神除霊事務所と双璧をなす、日本で最大規模のGS事務所と言って良い。

 現役GS四人に加え、新人が二人も加わっているからだ。

 今年のGS試験は凄まじい戦いであった。とてつもなくレベルの高いGS試験、恐らくは伝説の試験として歴史に残るだろう。

 昨年のGSギルド創設から数えて第二回大会。それはGS協会が主催していた頃と比べても例外と言えるくらいに層は厚かった。

 免許取り消しとなり、再度修業を積んできた元ベテラン。

 前回よりもさらに実力を増してきた、元GSである若手たち。

 そして、ニューエイジと呼ばれる新人たちだ。

 中でも、元プロを押しのけて新人達の大活躍が凄まじかった。

 彼らにとって不幸であった事は、今回合格したGSはいつもならば一位通過してもおかしくない実力の持ち主だったと言う事だろう。

 十年に一人の逸材。それが十数人も出たのが、今回のGS試験の総括である。

 新人たちを少しだけ紹介すれば……六道女学院勢を紹介するのが良いだろう。

 霊波刀を使い、老練なベテランGSを倒して合格した人狼族のシロ。

 明らかに手加減したまま、GS試験合格まで持ってきた、九尾の狐の生まれ変わりのタマモ。

 持ってきた武器はネクロマンサーの笛一本。それを使わずにネクロマンサーの氷室キヌ。

 優勝候補と呼ばれていた、死のブロックを勝ち上がってきた水晶観音を使う弓かおり。

 無類のタフネスぶりを発揮し、悉く参加者をスタミナ切れにさせてきた一文字魔理。

 五人以外にも特別推薦枠を設けられた六道女学園から受験し、合格した者が大量にいたのだ。

 これはGSの卵たちのレベルが高いことと、若手GSの活躍が発奮材料になったと思われるが詳しいことは分からない

 だが、これだけは言える。

 幾多に経験を積んだ元GS。合格枠六十四名に拡大された人数。

 その内半分を少女達に奪われていく。これは奇跡では無い。事件だった。

 まあ、それでも中には名勝負は幾つも存在する。

 合格直後、横島忠夫とかつて戦った陰念が弓かおりにボコボコにされたり、妖狐対人狼の戦いなど語りつくせない戦いはある。

 だとしても、語るべき事は一つ。元プロは今回僅か七名の合格者のみだった。GSのレベルが進歩していく様をベテランたちに見せ付けられたのだ

 そして、今回のGS試験は六道女学園のレベルの高さや指導方法の適切さが正しいことを示し、世界にアピールして見せた。

 六道女学園の名前と六道家の名前をGS業界だけならず、世界に知らしめることになったわけだ。






 余談ではあるが、GSギルドでは現在「横島、美神の二大GS業界」と呼ばれている。

 独立派横島除霊事務所、魔族の退治から異種族交流まで行う戦闘力として言うならば最強の事務所。

 六道派(美神派)美神除霊事務所、オカルト系や自縛霊などならば美神除霊事務所のほうが解決するのに適している。

 二つの事務所は高額な依頼を幾つも持ち、その収入は他の事務所から見ても群を抜いている物だ。

 では、何故業界と言われるか?

 それは、美神除霊事務所が主に仕事をするのは大規模でも民間的な除霊が中心。

 幾つもの民間依頼を片付ける事適し、受けられなかった物は近い人間に依頼を回して行くからだ。

 横島除霊事務所はかなりの大きな除霊や魔族などの事件など半々で国や各心霊団体とも連携を取っている。

 彼らが受け持った依頼で、対応しきれない比較的小さな依頼はGSギルド管轄の下、複数の事務所で解決する場合も多い。

 言うならば、二つの市場が出来てしまっている。そのオコボレを他のGS事務所が受けてしまっている。

 そして、この二つの事務所は棲み分けが出来てしまっているので対立関係が成り立たない。

 本来ならば、そんな平和なやり取りが続いたのかもしれない。だけど、それはこの事件で終結してしまう。

 GS業界が後に語る。

 この事件が始まりの終わりだったと。

 それは心霊事件史上、記録する中では最悪の事件。人間が起こした事を限定すれば、最大を付けるべき事件。

 GSがこれまで目を向けなかった世界。

 裏の世界が管理していた戦い。

 表に出た戦い。それが幕を開けたのだ。






 その日、横島は一人で事務所内の書類整理をしていたのだ。

 GSの仕事としては正月、成人式、センター試験で一旦仕事が全て終わり、次のイベントであるバレンタインまでは比較的余裕がある時期になる。

 故に一月の中旬から、二月の始めまでは比較的暇な時期に入る。

 つまりはGSの休暇期間。この時期はどの事務所もそれなりに休暇を取る時期に入り、二月に備えるわけだ。

 二月はバレンタインデー、さらには受験戦争。この月も忙しい月になる。

 横島はふとホワイトボードを見た。正式な事務所員の名前が張ってある。

 ピート、タイガー、雪之丞。この三人、現在は休暇に貼ってあった。

 彼らは高校時代の仲間、GS試験で出会った言うならば戦友でありかけがえの無い仲間だ。

 魔神大戦でも共に手を携え、共に事務所を開いて、僅か三年でGS業界全体に名前が広まるだけの事務所にしてきた。

 彼らに加えて、見習い期間の実習先として選んできた弓かおりと一文字魔理の名前も見える。

 当初は美神除霊事務所での研修を希望していたらしいが、何と六道女学院合格者の全員が希望。

 所長であり、元雇い主である美神令子は六道女学院では『お姉さま』と呼ばれる憧れの人物だ。

 当然、一番人気になるのは仕方が無い事だろう。

 彼ら二人は伊達雪之丞とタイガー寅吉の伝手で横島の所で研修していた。

 まあ、それも今は休暇で居ないのであるが。

 事務所には横島が一人だけ。やって居る事は書類整理と電話番のみ。

 後は小さな依頼があれば細々とやっているくらいだ。

 だから大きな依頼なんか持ち込まれても何も対応できない。

 そんなことは、事務所のホームページにも書いてあり、普通は依頼なんて来ないはず……だった。

 そこに六道女史が来たのは一月も終わり。三十一日の昼過ぎだった。

「横島君、ちょっといいかしら?」

 間延びのする声でやってきた彼女、六道家当主はコーヒーカップを手にこちらに微笑みを浮かべている。

 ―――恐らく、冥子ちゃんもこんなふうになるんだろうな。

 と思いながらも、横島は無礼を承知の上で机の上にあった書類を一つに纏め、書類棚にしまった。

「すいません。書類仕事でも絶対にやる事があったんで」

「別に構わないわ。GSは書類整理が大きな仕事だもの。生徒を基本からしっかりと教えてくれてありがたいと思うわ」

「それは美神さんに言ってください。書類の大事さはあの人の仕事を見て覚えたので」

「そうね。令子ちゃんはその辺りが凄く良く出来る子よ。だからこそ、今では名を馳せているとおばさんは思うわ」

 彼女は言うと、コーヒーに口を付ける。

「あら、これはグアテマラ産のコーヒーかしら。酸味が強くて、甘い香りとコクが良いわね」

「……俺は知らないんすけど、雪之丞が結構コーヒーに凝ってますからね」

 横島は言うと、自分のコーヒーを口にする。

「それにしても今日は休暇中ですよ。俺がいなかったらどうするつもりなんですか?」

「大丈夫、雪ちゃんに聞いたから」

  ―――雪ちゃん、誰だそりゃ?

 横島の中で一瞬色々な人間が思い浮かぶ。ただ、その中には雪ちゃんの名前は無い。

 強いて言えば、小学校の時に動物係でそんな名前の小動物が居た気がするが……

「弓さんと一緒に居た彼に聞いたのよ」

 雪ちゃんとは雪之丞の事だったらしい。

 つまり、今日は彼は彼女とデート中。休日中に何をしていようと構わないが……

「なんで、あいつが休みの日まで女と一緒に居るんだ!? 俺はこんなに仕事がたくさんたまっているのに!!」

 わら人形を探す横島であったが、わら人形は西条に呪いをかけて居る時に呪い返しされ、わら人形が破壊された事を思い出したのは数瞬後。

 何も無かったように、唇を噛みしめ、握りこぶしを震わせながら大きく仰ぎ見た。

「あら、何もしないの? 横島君の呪いの腕前も見て見たいんだけど」

 次の瞬間、口に含んでいたコーヒーを思いっきり、大事な書類に吹きだした。

「ゴホッ、グホッ……な、なんですか、それはーー!!!

「色々な人からの情報で、他人に呪いをかけるのが横島君だと言う情報は得てたんだけど、残念ね」

 その言葉に、横島は決して人前で呪いをかけるのを止めようと思った。

 世界には恐ろしい人間は沢山居る事は知っていた。だけど、それ以上に恐ろしい人間が居る事を知ったからだ。

「しかし、雪之丞がデートか。こうなったら、からかってやろう」

「からかうならば、弓さんの実家に行った事をからかった方が良いわよ?」

「えっ……」

 横島は一瞬、六道女史を見つめる。それに彼女はニコニコと笑っていた。

「それにしても、雪之丞君がご挨拶なんて随分積極的だと思わない? 横島君」

「うっ、それはそうかもしれないですけど」

「もしかしたら、色々と間違えてご挨拶に行かなければ行けないような事態になったのかしら?」

 天然顔で首を傾げる彼女に横島は頭の中で色々な情報が舞う。

 その結果、横島は思いっきり首を横に振らざるを得なかった。

「さ、流石にそれは」

「無いと言い切れる?」

 その言葉に言葉が詰まった。だが、その話題に深く入るより前に逃げ口実を横島は頭の中に閃いたのだ。

「一旦その話は置いておいて、そんな話をするために来たんじゃないですよね」

 それは仕事に話をする事。

 最悪な逃げ方であるが、それ以上言われたら真実を追求する為に弓家に向かうしかなかっただろう。

 雪之丞の骨を拾う為にも。

「ええ、ちゃんと話はあるわ。横島君、冬木という町で起きたGS殺害事件って知ってる?」

 毎日の主な新聞、テレビ情報を思い浮かべながら頭の中に浮かべる。

 冬木と言うのは、東京から新幹線などを乗り継いで行くことが出来る場所だ。

 東京からは相当遠い。移動時間だけで時間がかかってしまう場所で、横島も行った事が無い場所だった。

「TVでやっていない事件ですか?」

「ええ、GSが除霊中に失敗して殺されちゃったらしいの」

「良くあることですね。GSギルドかオカルトGメンが事件を隠す理由があって隠したんですかね。それが何か?」

 GSの死亡事故は相当多い。

 事故や事件を隠す為に動いてきたのはGS協会やオカルトGメンの中ではかなり聞く話だ。

 そんな類の事件。流石にそこにまでは耳は回らない。

 故に新耳な情報ではあったが、GSあるあるだったので、それが正しいのかはともかく、驚きはしない事件だ。

「三日間で十二人、普通ありえると思う?」

 それは絶対とはいえないが余りありえる話ではない。

 GSは厳密な調査の上で行動することがGSギルドで設定されている。

 そう言った事故が起きれば、当然上書きはされるし、調査班ももう一度動くはず。

 ならば、資金をケチったのか?

 それはあり得ない。あの美神令子でさえ、調査には十分すぎる程の金をかけるのだ。

 だとすれば、モグリの可能性はある。

「前もGS免許を持っていた人間ですか」

「ええ、内八人がGS免許を現在も持っていて、残りの四人はGSの助手として援護に言った人たちよ」

 モグリの線は殆ど消えた。事前調査をしっかりして居ない人間は今のGS業界で生きている事は出来ない。

 つまり、例えモグリは居たとしても、大半がしっかりとしたGSだったわけだ。

 それが三日間で十二人……あり得ない。横島はしばらく手を顎に当てて考え込んでいたが、やがて頷いた。

「分かりました。引き受けましょう」

 何となくだが、この事件はヤバさを感じていた。

 下手をすれば取り返しがつかなくなる可能性がある。GSの直観が横島に告げた結果だ。

「良かったわ。これで、冥子を行かせずに済むもの」

 ―――今、何と言いました。この人?

 横島は思わずこぼした彼女の独り言に冷たい視線を向ける。そんな視線に気付いたのだろう。

 彼女は珍しく慌てた様子で説明を始める

「冥子、最近失敗続きなんですもの。こんな危険な仕事、やらせるわけには行かないわ」

 結局、六道家の当主も人の親なのだ。

 同時に六道冥子を向かわせてはいけない。それには完全に同意した。

 そんな事をしたら、絶対に失敗する。

 恐らく事件がどうこう関係なく、冬木の町が崩壊する様が簡単に想像がついた。

「じゃあ、これにサインお願いね」

 六道女史は書類を取り出すと、契約書を取り出す。

 そこには十億円と言う莫大な報酬が書かれていた。条件はホームページで公開されている条件と同じだ。

 ただ、そこには除霊費用と調査費用に加え、黙秘料が付いていた。

「あの、調査費用と除霊費用は分かるとして、この黙秘料は?」

「それは、幹部の方が美神除霊事務所に持っていくと思って、GSギルドの権威を落とすことを防ぐ口止め料として追加された物よ」

 確かに権威は落とすかもしれない。

 GSの名門、六道家が除霊できないと放り投げたのだから。

 つまり、今回は六道家に雇われた横島除霊事務所が対応する事になる。

「あの、となると冥子ちゃんは?」

「今、修業中ね。流石に最近の失敗続きには私も怒っているのよ」

 その言葉に横島は軽く冥福を祈る。今頃は彼女にとって地獄の修業が待っているのだろう。

 どんな思惑があるとしても報酬は報酬。所長として、経営者として、金はあっても邪魔になることはない。

「分かりました。この条件で引き受けます。準備がありますから冬木に入るのは明後日、二月二日で良いですか?」

「ええ、それで良いわ。そう言えば、唐巣さんから集合がかかってるけど、この件は知ってる?」

「いえ、初耳です。それは俺もですか?」

「名前を見る限りはそうみたい。多分メールで配信されているんじゃないかしら?」

 そう言うと彼女はコーヒーを飲み、カップを置いた。

「横島君、今日は本当にありがとう。これからも色々とお願いするかもしれないけど、お願いできるかしら?

「それは条件次第ですよ。俺としたら、誰かと敵対すると言う気持ちはないですし、敵対するとしたら……真っ向から意見がぶつかる時ですかね?」

「ふふ、その日が来ない事を祈って居るわ。じゃあ、私はこれで」

 そう言うと去って行った。

 六道家の当主がああ言うと言う事はGSギルドの上層部は相当混沌としているらしい。

 勢力争いと言うか、何と言うか、出来たばかりなのだから前に進む事を前提として考えればいいのにと考えていると、思わずため息が出る。

「まあ、良いか。取りあえず、明日集まりがあるかどうか確認だな」

 横島は言うとコーヒーを入れ直す。明後日の準備の事を考えると、準備は今日中にすまさなければ行けないだろう。

 つまり、本日は定時目一杯の仕事は決定。冬木市の情報などをインターネットや本、地図などで調べる所から始めなければ行けない。

 その仕事量の多さに横島は苦笑いをするとパソコンを立ち上げる。

 冬木に向かうまで、時間もないし情報も無い。ただ、出来うる限りの事をやってから向かうつもりで、横島は机に向かった。






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