『六道家合宿 死徒襲来』
「……あのね、横島さんたちに話があるの〜」
そういう風に六道女史が切り出すときは、まず間違いなく色々と無茶なことを言われるものである。
横島除霊事務所の立ち上がりはまあまあだった。
横島、雪之丞はAランクに上がり、タイガーがBランク、ピートがCランクのままだったが思いのほか好調である。
Aランクが二人も在籍している事務所などGS事務所としては数が少ない。
何より、今回の試験で廃業に追い込まれたGSは数知れないのだ。
もはや、まともに戦線を維持できる事務所すらも少なくなってしまった。その為、必然的に雇っているGSの数が多い事務所ほど優遇されているのだ。
そういう中での四人在籍も珍しい。
信用できる能力ということなのか、GSギルドからの仕事斡旋も多かった。
さらにプラスすると除霊器具はタイガー以外、ほとんど要らないのも経費削減となっており、美神令子除霊事務所の三割でも十分すぎる儲けができた。
そんな左団扇な状況で、さらに六道女史がやってきたのだ。
「横島除霊事務所に依頼があるの〜」
それは夕暮れ時。所長の横島があきもせず毎日夕日をぼけ?っと見ているため他の三人が仕方なく忙しく立ち回っているときに、六道女史が入ってきたのだ。
ちなみにここはGS協会が斡旋してくれたので高校生でも事務所が開けている。労働基準法? ????さあ?
やっとこっちの世界に戻ってきた横島がソファーに座り、応対する。
「あのね、皆さんに林間学校についてきてもらいたいのよ〜」
「「!!」」
タイガーと雪之丞の書類を書く手が止まる。
六道女史からの依頼。
↓
林間学校に付いて行く。
↓
六道は女学院だ。
↓
周りは女だけ。
↓
パライソ。
「そういうことなら、美神さんたちに頼んだらどうですか?」
横島は平静を装って美神令子を推薦する。だが、溢れ出る歓喜を押さえられず先程から口の端が痙攣していて非常にキモい。
「そう思ったんだけどね?。美神除霊事務所も、小笠原パシフィックオフィスも、助手がいなくなって忙しいって断られちゃったの。だから……」
「俺たちに依頼と、……いうわけですね」
横島は頷く。
「そうなの〜。受けてくれるわよね?」
共同経営者の雪之丞を見ると、雪之丞は満面の笑みで頷いた。
タイガーも不気味なくらいニコニコ笑っている。
どうやら、満場一致のようだ。
「分かりました。四人全員でサポートしましょう」
横島は表面上は真面目な顔で六道女史の手を取った。
「おい、サポートって何だよ」
林間学校に付いていくというだけで、仕事内容を説明されていない雪之丞が不信に思い、二人に突っ込む。
しかし、二人は無視して打ち合わせを始める。
六道女史はもとより人の話を聞く性質ではないし、横島も精神があっちの世界へと旅立ってしまっているのだ。
「ありがとう〜。じゃあ、一週間後に東京駅出発だから」
「どういうことなんだ!!」
雪之丞の叫びは誰にも聞き届けられることは無かった。
そして一週間後、横島たちは東京駅に集まっていた。
横島は着替えしかもって来ていないが、雪之丞は札や精霊石など値の張るものを大量に……。
タイガーもピートもそれは同じだが、背中が巨大なリュックになるくらい持ってきていた。
「雪之丞、ピート、タイガー……強い霊はそんなにいないって」
横島の言葉に三人は頷いたが全員、緊張している。
横島の説明が悪いのであろうか。それとも女子高の合宿ということだからであろうか。おそらくは後者だろうが……。
「はあ……」
横島はため息をついた。横島の表情は本当に大丈夫かと言う顔だ。
当たり前だ。……自分以外のメンバーが緊張でガチガチだったらため息の一つで済んでいる横島は美神令子よりどれだけ優しいことか……。
「あれ、横島さん?」
偶然、というよりは必然なのだろうが、横島の姿を見かけたおキヌは近づいてきた。
「おキヌちゃん、どうしたんだ」
横島は同僚は放って置いておキヌのほうに向いた。
「横島さんこそ……。一体、どうしたんですか? 依頼人と待ち合わせとか……」
オキヌの灰色の脳細胞は爺ちゃんの名にかけて推理を進める。
弓さんの影響だろうか…あの人も本が好きやからな…横島はそんなことを考えながら、オキヌちゃんの質問に答えた。
「今回の依頼人は六道女史なんだ」
向こう側で不満の叫びが聞こえる。どうも教師が今回のGSについて話をしているらしい。
「えー、美神お姉さまは来ないんですか?」
「エミお姉さまも?」
彼女たちは教師に文句を言う。
「まあまあ」
教師の鬼頭は抑えていた。そして、横島についての説明をする。
「今日は若手のGSでトップクラスの実力を持っている人間に頼んだやと」
「へえ……」
その背後では横島たちが雪之丞たちに説明している。今回の林間学校同行についてだ。
「つまりは……、林間学校って言うのは実習なわけだな」
「そうですよ。……説明されなかったんですか」
オキヌは横島に尋ねた。あははは……と笑い声を出しながら横島も弁解をする。
「いや、……弓さんたちから聞いていると思って……」
雪之丞はようやく納得がいったという感じだ。
「一匹一匹は弱いかも知れないけど、束になってかかってくるからな。いざという時のためにプロのGSがサポートするんだ」
横島は全員に注意を促す。皆は横島の言葉に頷くと、横島は手を出した。
「横島除霊事務所、いくぞ!!」
「おうっ!!」
横島の掛け声に力強く応えたのは雪之丞だけだった。
残りの二人。タイガーとピートは抜け殻のようになっていた。
「おおい、GSの諸君。バスに乗ってくれ」
二人は背中に哀愁を漂わせながら、教師の言葉にやっとフラフラと動き出す。
「一体、何があったんだ?」
教師はいぶかしみ、おキヌに問いかける。
「下心はいけないと思います」
おキヌは答えになっていない正解を告げた。
バスの中では、横島に対してリンチが行われていた。
「横島よ、美神お姉さまのところにいた!!」
女生徒の攻撃、横島の精神にダメージ。まあ、RPGだったらそう書かれているだろう。
「どうやら、六女の連中に嫌われているな。俺」
横島は苦笑いしつつ呟く。
「まあ……最初の出会いがああですから」
オキヌも苦笑しながら言った。
「しかし……お前が七回戦まで出場したとはな」
鬼頭の声には素直に賞賛の響きがある。横島の周りにいる人間にしてはまともだ。
「そう言えば、どこまで行ったんです?」
「俺か? ……俺は四回戦で冥子さんにプッツンされてなー」
「あははは……。??笑えねえ」
そんな微笑ましい世間話の後ろでは、恐るべきことが起ころうとしていた。
「ピート君、こっちを向いてー!」
きゃいきゃいと女子に囲まれているピート。
彼はその対応に追われていたせいか、殺気の域にまで高まった視線に気付くことが出来なかった。
「おい……。再びやるか?」
嫉妬の鬼と化した雪之丞の言葉に、同じく嫉妬戦士となったタイガーは頷いた。
「やらねばならんですノー……」
タイガーはピートのポテトチップスに、何故か・・・常備していたニンニクスライスを混ぜ込んだ。
それを知らずにピートは女子の手によって、ニンニクを口の中へと放り込まれたのだ。
「ぐはっ!! こ、これは……なんで、に、ニンニクが……まさか!?」
ピートは朦朧とする意識で犯人を見る。タイガーと雪之丞はニヤリと悪魔の笑みを浮かべて返した。
「グッバイ。エイジ・ダテ」
「また……はめられた」
ピートはいつか、タイガーと雪之丞も同じ目に合わせる。そう考えつつ、意識を手放したのだった
「そろそろ到着や」
鬼頭がそう言った場所に、横島は見覚えがあった。
「ここって……」
懐かしい風景。そこには思い出深いガードレールがあった。
「オキヌちゃんが俺を殺そうとした場所だ」
横島は感慨深げに呟いた。その呟きを聞いてオキヌも外を見る。
「あっ! ……本当だ」
おキヌにとってもここは思い出深いところだ。今でも、あの日のことは鮮明に思い出せる。
あの頃はまさか、こんな風になるとは思っていなかった
そして、すぐにバスは温泉ホテルに到着した。女生徒は用意された台の前に集まる。そこに、鬼頭が立った。
「さあ、GSのメンバーを紹介するぞ。まずは若手ナンバー1、ナンバー2の横島忠夫と伊達雪之丞。
精神感応能力者のタイガー寅吉、バンパイアハーフのピエトロ=ド=ヴラドだ。」
鬼頭は言った。その説明の中、横島は挨拶のため軽く頭を下げたあと、席をはずす。
「……雪之丞、俺は下見に行ってくるわ。後はよろしく」
少し気になることがあったので、横島は下見に歩いて行こうとしたが、旅館の角を曲がったところでその存在は突然現れた。
「横島さーん、来てくれたんっすね!! これこそ、男の友情っす!!」
そう、その存在とは横島がこの温泉地で見つけた男の幽霊だ。
「こら、ワンダーホーゲル部。てめえ、何も変わっておらんな。まずはてめえから逝ってみるか?」
「うおおおー! 横島さんが男の友情を分かってくれないなんて、自分は悲しいっす!!」
「誰が分かりたいと思うか!!」
横島は吐き棄てるように言った。ワンダーホーゲル部は横島に一通りの男の友情(?)を確かめると本題に移った。
「それよりも、何のようっすか」
「ああ、林間学校で来たんだ。まあ、除霊実習とも言うがな」
ワンダーホーゲル部は目を細くして哀れみの表情になりながら、とりあえず聞いた。
「横島さんが……っすか?」
ワンダーホーゲルの言葉に横島は肩を落とした。
「あのな……。俺が、なんで、林間学校に出なければあかんねん! やぱり、お前から除霊したる!!」
「雪之丞、あんたが何でここにいるのよ?」
弓は聞いた。当たり前の質問であろう。恋人が何故かここに居るのだから……。
「六道家に頼まれてな。今回は俺たちが護衛に回る。」
雪之丞は平坦な声で言った。それは正直に、仕事の顔をした雪之丞だ。それが弓は面白くない。
だが、横島ほどではないとはいえ朴念仁の雪之丞に君のことが心配で来たんだなどと言えるわけもない。
「はっきり言いまして、貴方などいなくても大丈夫ですわ」
「そうか、でもな……、他のやつはダメかもな。その時は全員で助けるから安心して戦うと良いさ」
「!!」
その時、弓は理由もわからず怒りがわいた。
「そうですか、私は私のやり方でやりますから!!」
「連絡しないで悪いノー、決まったのは一週間前で準備するだけで時間が足りなかったんじゃケン」
タイガーの言葉に真理は頭をかいた。
「まったく、しょうがないな。……でも、これからは連絡つけてくれよ」
真理は大きいのに態度が小さくなるタイガーを見て、照れ笑いをしながら言った。
横島は彼らがラブラブ空間を作っている間に、持って来た書類の束に目を通し始めた。
半ば好奇心だが、夢の中で出会った、アルトルージュという死徒と吸血種を調べようとギルドから何冊かの本を借りてきたのだ。
「吸血種のことが保存されているGSの資料はこれだけか」
横島は第一ページを開いた。吸血種の特性などの説明の後に、彼らの頂点たる死徒二十七祖についての報告書があった。
それを読んで、横島は少し憂鬱になった。
1 / Primate Murder プライミッツ・マーダー
アルトルージュにのみ従う白い魔犬。高い戦闘能力を有するらしいが記録がないため詳しくは不明。
2 / the dark six
---------不明。
3 / Brunestud 朱い月のブリュンスタッド
現在、空席。
4 / Zelretch 魔道元帥ゼルレッチ
---------情報規制。
5 / O R T オルト
外見は蜘蛛に似ているらしい。
「らしい、ってなんだよ。ろくなこと書いてねーなー」
GSは主にアメリカと日本を活動の場としているので、欧州に多い吸血種についての情報は少ないのだ。
欧州最強の退魔機関である埋葬機関ならばもっと詳しい資料があるのだが、せん無いことである。
「お。あった」
横島の眼の先にあるものは、
9 / Altrouge Blunestud アルトルージュ・ブリュンスタッド
活動可能な上位陣が少ない今、死徒たちの実質的なトップ。真祖と死徒の混血。血と契約の支配者。
「へえ、偉かったんだなあ、彼女。今度会ったときにはちゃんと挨拶しておこうかな……」
魔神クラスの相手に、素でこんなことが言えるあたり、ある意味大物である。
「しかし……、こんな資料じゃ役に立たないな」
横島はため息をついた。
「死徒ってとんでもねえ奴らばかりなんだな……。
実際、いままでかなりの数のGSがやられているようだし……、やっぱり闘ったら負けるか……?」
横島は考えたが、能力すらも分からないのでは勝ち目は無い。
「ダメだ、考えてもどうしようもねえ。しゃあねえから……時間まで寝るか」
横島は布団に横になった。
「よ、アルトルージュ。今日も綺麗だな。少しお茶でもしないか?」
横島は軽く挨拶をした。無謀にも普段しているように。
「……お主、未来からこちらに干渉するなどやってはならぬことだろう。神族や魔族から睨まれるぞ」
幸いというか、賢明というか、アルトルージュはさらりと無視した。
横島も少し気まずく感じ、なかったことにして、アルトルージュの言葉に首を振った。
「俺は未来の人間だし、そちらの内情など何も知らない。それに……神族も魔族も、こんな風に時間移動していることなんて知らないだろうしな」
「そうか……。ならば良い」
アルトルージュは安堵したように優しく笑った。
その綺麗な笑顔に横島は惹かれそうになったが、アルトルージュは見た目14歳くらいなので倫理的に衝動を抑えた。
「それよりもお主、文殊使いか?」
「あ? ああ」
横島は証明というように文殊を出して見せた。
「長く生きていたが、始めて見るな。すべての確率を強制的に、……そして確実に起こる可能性にする武器か。
ある意味では空想具現化装置とでも言うべきか。死徒でもこれを相手にまともに戦えるものなどほとんどおるまい。
我ら死徒二十七祖でも多少はてこずるな」
アルトルージュはそこで一旦言葉を切り、思い出したように告げる。
「……そう言えば、お前。ズェピアの気配がするな」
「ズェピア……? 誰だ?」
「二十七祖の一人だ。気をつけろ、奴は私が力を与えた自然発生型の死徒だ。
第六法に仮初とはいえ食い込んでおる。滅ぼすことはまず不可能と見ていいだろう」
横島は忠告をくれるアルトルージュを不思議そうに見つめた。
「ふん。……私はただ、貴様にズェピアなんかにやられてほしくないだけだ」
「……ありがとう。じゃあ、俺は戻るよ」
感謝の言葉を聞いたアルトルージュは何故か悲しそうに横島を見つめた。
「早く行くと良い。久しぶりに好意から吸血衝動が出始めた。もう……近づくではない」
「おい、横島。起きろ!! 奇襲だ!!」
雪之丞の声が聞こえる。横島は雪之丞の声で戻ってきた。
「すまん。起きた。敵の規模は?」
横島は着替えながら、雪之丞に尋ねた。
「せいぜい、数百匹だが気は抜けねえ。まだ後ろに残っている可能性がある」
「分かった、今すぐに行く」
横島が言うと雪之丞が走っていく。横島はそれからすぐ後に外へ出ると、雪之丞を追って走って出て行った。
横島が着いたとき、そこでは雪之丞やタイガー、ピートに数十名の生徒が応戦していた。
こちらへの進入は簡易結界によって防がれている。だが、霊は全然統制が取れていない。いや、それどころか逃げ出そうとしているようにも見えた。
「何? 何かおかしい!」
横島は大声で注意を促す。
「何がおかしいって言うんだ?」
これほど大量の霊と闘ったことのない雪之丞は何がおかしいのかを理解できず聞いた。
しかし、横島は答えず、自分の考えを確かめるために結界の外に出る。
「馬鹿! お前がどんなに強くたって……」
だが……横島には一体も襲ってこない。いや、人間に襲い掛かることも無く逃げ回っていた。
「どういうことだ?」
雪之丞は不自然さに気付き、問いただす。
「こいつらは何かから逃げてきたんだ。それが何かは分からんけど……」
周りは一段落ついている。周りには生徒たちが集まっていた。横島はその時、ある霊波を感じ取った。
「この霊気は……」
横島は栄光の手を出して、戦闘態勢を取る。
「ほう。……気配は完全に消したつもりだが……たいしたものだ」
横島はゆっくりと声をした方向へ向いた。
「霊気で感じてたけど、本当にいるとは思わなかったぜ」
あまりの霊圧に悪霊たちも逃げる中、その男は一人たたずんでいた。
「そうだろう……アシュタロス!!」
雪之丞たちはその影を見て固まった。
「まさか……彼は死んだはずでは……」
ピートは震える声で誰ともなく聞いた。雪之丞はイチかバチかの特攻を仕掛けようと魔装術を纏う。生徒たちもそれに習おうとするが……。
「止めろ、お前たちは下がれ!!」
という雪之丞の声で下がっていった。
「そう……私は死んでいた。だが、横島忠夫。君のおかげですばらしい肉体を手に入れることができた」
「!?」
横島は言葉の意味が解らず、首を傾げる。そこに後方へ下がらなかった一文字、弓、おキヌが現われる。
「おい、あんたがアシュタロスだか亜種だかしらないけどな……、俺たちに、このメンツに喧嘩を売ってただで済むと思っているのか?」
アシュタロスの強さを知らない一文字は無謀にも、そう聞いた。
「止めんシャイ!!」
虎化したタイガーは怒鳴った。
「真理さんが勝てる奴ではないケンノ!!」
「さて……、今宵限りの舞台。数年前にあった事件のように終わらせてくれよう。貴様らの人生を」
横島はさっきから妙な、猛烈な違和感を感じていた。アシュタロスと最も相対したのは横島だ。だからこそ横島には解る。
「てめえ……アシュタロスじゃねえな」
横島の言葉にGS全員が混乱する。
「どういう事だよ?」
雪之丞は聞いた。
「……なんか、俺がアシュタロスを『模』したときみたいな感じがする」
「ふっ……ふふっ……ふふふ、ふははははははははははははははははははははは!」
アシュタロスはアシュタロスらしくない芝居じみた笑い声を上げた。
「なるほど。流石は魔神大戦の英雄ということか。だが、私はアシュタロスだ」
「まあ、確かにマジで同じくらいの力はあるかな……」
横島は絶望的なことを告げる。
横島の言葉に雪之丞達は顔を青くする。
かつてアシュタロス戦で切り札だった合体文殊は、雪之丞達では横島との霊力差がありすぎて使えないのだ。
準備もないこの状況では勝てない。
「では……いくぞ」
アシュタロスが軽い口調で放った霊波砲は、簡易結界を軽々と貫き、一瞬にして横島を飲み込んだ。
誰もが何が起きたのかわからず、呆然とした中、最初に我に返ったのはさすがというか雪之丞だった。
「横島ー!!」
その叫びに他の者達も我に返り、横島の名を叫ぶ。
「ははははははははははははは! さすがは世界を滅ぼしかけた魔神。かつての私を上回るポテンシャルだ」
「やっぱり偽物か……」
一人悦に入っていたアシュタロスに向かって呟いたのは、ありえない人間。
「貴様……!」
主人公のお約束とも言うべきか、横島は生きていた。『絶』『対』『防』『御』の四連結でアシュタロスの攻撃を防いだのだ。
「てめえみたいな奴は、これでも食らいやがれ!」
横島は文殊を投げつける。
中に入っている文字は『滅』。再生怪人とかの二番煎じには絶大な効果を発揮するのだ。
「……これは……」
文殊の効果でアシュタロスが消えていく。もし本物ならば容易く無効化したはずだ。
「ほう……我がテリトリーを消すとは。だが、自然発生型である私を滅ぼすには少々足りないな」
アシュタロスが耳まで裂けるかのように口の端を吊り上げて嘲笑う。
「自然、発生型?」
横島はアシュタロスの言葉を反復する。どこかで聞いたような気がするからだ。
そう、どこかで??
-----奴は私が力を与えた自然発生型の死徒だ。
アシュタロスはさらに口元をゆがめる。喜悦を交えた笑いだ。
「愉快、我が特別舞台が破壊されても余りあった。役者はこうでなくては……。その内に第二ラウンドといこうではないか」
-----そう言えば、お前。ズェピアの気配がするな。
横島はやっと思い出した。
そうだ。アルトルージュだ。
「……おまえ……、ズェピアか?」
「??ふ……ふひ……ふひぃひぃひぃひぃひひぃひぃふひひぃひぃひぃひぃひぃひいひいひぃひぃひぃひぃひぃひぃひぃひぃ」
アシュタロスは答えず、壊れた笑いを上げながら消えていった。
「くっ……本当に俺じゃ滅ぼせなかったようだな」
横島はため息をついた。
「おい。大丈夫か?」
雪之丞は横島に駆け寄ってきた。
「大丈夫だって……。でも……厄介なことになったな。大事件だな……こりゃあ」
横島は呟いた。雪之丞はその言葉に首を傾げる。
「ああ? まだ終わってないのか? 俺にも詳しく教えろ」
「いや、こっちの話だ」
そう言って誤魔化すと、横島は久しぶりに心の底から真面目になった。魔神大戦以上の何かが今始まったような気がしたのだ。
前話
目次
次話