『竹馬の友』





















 横島は東京に戻って来た。





 横島の頭は死徒をどうにかすることで一杯だった。

 もし二十七祖クラスの敵と相対してしまったら、装備の整っていないGSなど物の役に立たない。現に横島はロアによって死の危険を感じた。

 アルクェイドほどの力までいったら、横島でさえ瞬殺される可能性があるだろう。

 そのため、横島は装備を取るために事務所に戻らざるを得なかった。

 しかし、面倒なことに、そこには知り合いが会議を行っていたのだ。
 
 神族にして横島の師ともいえる小竜姫。
 
 魔族にして戦友たるワルキューレ。
 
 色々と幸薄い唐巣神父。
 
 かつて雇い主だった美神令子、その友人(?)である小笠原エミと六道冥子。
 
 かつての同僚おキヌ、そしてうちの社員のピート、タイガー、雪之丞が何かについて話し合っていたのである。

 横島が入ってきたことに、最初に気付いたのは美神令子だった。

「横島君!?」

 美神の驚きの声に周りの者達も横島に気が付いた。

「てめえ、今までどこに行ってやがった!!」

 雪之丞の怒声が響く。

 所長が行き先も告げずに何日も居なくなったのだから、当然の抗議である。

 横島も自分に非があると分かっていたので苦笑いを浮かべたが、何も話すつもりは無かった。
 
 三咲町で起こっている事件は危険過ぎる。
 
 GSとしては妖魔退治を優先させて、ここにいる皆に説明して応援を頼むべきなのだが、横島は友たちの身の安全を優先したかった。
 
 仮にもプロのGSに向かって随分と失礼な考えであるし、友としても侮辱に近いものがある。
 
 それでも、横島は誰にも傷ついてほしくなかった。もう二度と大切な者を失いたくなかった。

 だから、横島はなんでもないように言う。

「悪い、野暮用でな。装備整えたら、すぐに行かなければならねえんだ。と、言うわけで雪之丞。後は任せた」

 横島は自分の引き出しから文殊二ダースを取り出す。文殊を今まで溜めた全ストックである。
 
 手持ちの分と合わせて、全部でちょうど30個。

「これで……足りるか?」

 横島は静かに呟き、さらに精霊石の箱を開ける。

 これは、GSギルドから五回戦以上に進んだ人間に配られたもので精霊石五個入りのセットである。

 次に神通棍を二本取り出す。

 以前やったSランクの依頼の時よりも重装備という異常な行動は、流石に雪之丞にも不思議に思えたらしい。

「おい、横島。……何かあったのか?」

 やはり戦闘バカというか、何も考えず、ちょっと不思議といった様子で雪之丞は問い掛ける。

 横島の顔が緊張に引き締まるが、すぐにヘラヘラした笑みを浮かべる。

「いや……何でもない。ただ、綺麗な姉ちゃんと約束があるからな」

 横島はおちゃらけて言った。一応嘘ではない。

「じゃあ、何でもないのなら、こっちの話にも入ってくれない?」

 美神はこめかみに怒りのマークをつけながら横島に話しかけた。

 普通ならコークスクリューパンチが来るところだろうが、独立して、もう昔のように美神の丁稚ではないので出来ないのだろう。
 
 怒りをぶつけることなく、聞いてきた。見方を変えれば、大人になったとも言える。

 しかし、雪之丞以外の者が横島の奇行に疑問を抱かないのは何故だろうか。
 
 ある意味、人徳というか、普段から異常性溢れる横島のため感覚が麻痺しているのだろうか。

「横島さんの力も借りたいんです」

 小竜姫は横島に嘆願する。神様なのに強制しないあたり性格がうかがえる。

「いえ……今はちょっと……」

「横島さん!!」

 おキヌは横島を非難の目で見つめる。

 横島は大きくため息をつくと……

「分かりました。……今日中に終わる話ならば」

 横島は時間を見て呟いた。

 昨日、アルクェイドと別れて今日荷物を取りに来た。明日に入られるとはっきり言って、時間的にもきつい。今日中には三咲町に戻りたかった。

「すみません、時間をとらせて」

 小竜姫は言った後、美神たちを見た。

「実はヒャクメが大変な話を持ってきました」

 その言葉に、横島は思わず感心した。

 ヒャクメといったら妖怪に百眼というのがいるが、それとは違い、話題の人物は神族の一人である。

 数少ない横島たちが実際に目にしたことがある神族の一人で、神様とは思えないほどおおらかで気安い(言いかえると威厳が無い)御方だ。

 そんな彼女の能力は千里眼といい、大げさに言えば万物の全てを見とおす力である。
 
 とはいえ、神とはいえ下っ端である彼女の力は実際のところ大したことは無い。
 
 強い結界の中や強い敵のことはろくに見えないという駄目っぷりで、現在の皆の認識は総じて『役立たず』となっている。

 だというのに、そのヒャクメが大変な話を持ってきたというのだから、横島としては感心するほかないというものだ。

「皆さんは死徒を知っていますか?」

 死徒。

 その言葉を聞いて、横島は嫌な予感、というより確信があったので、軽くボケる。

「ああ、あれっすね。ペテロとか、ヨハネとか……」

「それはキリスト教の十二使徒! 小竜姫様の言ってるのは……」

 即座に美神が突っ込みを入れる。それでも横島は話をそらしたかったので、もうひとボケ。

「じゃあ、サキ○ルとか、カヲ○君とか……」

「違うわ! アホーッ!!」

 美神のコブシが横島の顔面にめり込む。

「ご、ぶふっ!!」

「いい、横島クン。小竜姫の言っているのは死徒。
 あんたの言ってる使徒の『使』を死者の『死』に置き換えたもので、簡単に言うと吸血鬼の中でも明確な自我と強い力を持つ連中のことよ」

「ぐおおおおっ! 血が止まらねえっ!!」

「あんた、人の話聞きなさいよ!」

 勢いよく飛び出る鼻血を止めようとしている横島に、無体にも美神の蹴りが入る。

 いろいろと酷いことだが、皆見なれているので、気にせず話が続けられる。

「ただの死徒なら、私たち神族や魔族が関わることも無いのですが……」

 今現在、神族と魔族は人間界への干渉を禁じる。
 
 通称デタントの流れにより、神様はなかなか人を救えないし、悪魔はなかなか人をカモれない情勢となっている。

「実は死徒の中でも特に強い二十七祖と呼ばれる者が日本に来たのです」

 なんとなく予想していたその言葉に、横島は血の池に浸かりながら考える。
 
 ズェピアとロア。いったいどちらのことか、と。

 小竜姫の把握しているのがどちらかで横島の身の振り方も変わる。ズェピアなら同僚の雪之丞たちに感付かれているので協力せざるを得ない。
 
 ロアの場合はまだ横島との関係は知られていないと思われるので断って、先回りして退治する。

 そんなことを横島が考えているとは露とも思われず、皆に緊張が走る。

 それもそうだろう。仕事としてのランクづけで言うのなら、死徒二十七祖などランクSS。
 
 超一流のGSたちが束になっても成功するか怪しいレベル。
 
 かつて世界をひっくりかえす寸前まで行ったアシュタロス戦役より少し落ちる程度の仕事といえば分かりやすいだろうか。
 
 あまりの危険さに、ほとんんどの退魔組織は滅ぼすのをあきらめているくらいなのだ。

「先日、ヒャクメが羽田空港に降りるネロ・カオスを確認しました」

「……………………あれ?」

 横島の疑問の声が響く。

「どうかしたの? 横島クン」

 近くに居た美神はそれを聞き逃さず、尋ねる。

「いや、……美神さんが白いパンツ履いてるなんて意外だな、と思って」

 美神は愛用の神通棍を握り締めた。






 暴力的、又はグロテスクなシーン為、

 一部を自主規制させていただきます。






「うお! 横島!! なんか手足が曲がっちゃいけねえ方向に向いてるぞ!!」

 雪之丞が動かして良いものか迷い右往左往する。

「よ、横島さん! 血が出過ぎです!! このままだと……!!」

 ピートが一般人の出血多量を越え、いくら横島でも死んでないとおかしいくらいの血を見て顔を青くする。

「横島さん! 意識を取り戻さないとまずいですジャー!!」

 タイガーが必死に呼び掛ける。もう二度と意識を取り戻さない可能性が高い。

「横島さはーーーん!!」

 おキヌがヒーリングをかけるものの、焼け石に水。





 英雄、横島忠夫。享年十八歳であった。





 完





「死・ん・で・たまるかーーーっ!!」

 急に意識を取り戻した横島は手持ちの文殊に『全』『快』といれて発動させる。

「ふう、三途の川の向こうで親父とおふくろが手招きしてたぜ」

 注:まだ死んでません。

「美神さん! 殺す気ですか!!」

 横島の叫びに返ってきたのは冷たい視線。

「あら、死んでないの?」

 美神は不思議そうに聞く。

 横島はマジで殺す気であると悟り、何食わぬ顔で話を戻す。

「それで、そのカオスのじーさんの親戚みたいな名前の奴を退治すればいいんスか?」

「え? ……いえ、おそらく横島さんたちでも滅ぼすのは無理でしょう。
 神族と魔族による殲滅部隊が編成されますので、皆さんにはネロ・カオスを探し出して欲しいんです。
 そして可能なら被害を最小限に食い止めてください」

 小竜姫は急にまともになった横島のノリについていけず、すこし戸惑ったが、すぐに依頼内容を告げた。

 横島は小竜姫の言葉を吟味し、さらに深い思考へと入る。

 信じがたい話だが、二十七祖が3人もいる。

 まずはズェピアという死徒。六道学園の林間学校で何故かアシュタロスの姿を持っていた相手。
 
 アルトルージュは二十七祖だと言っていたが、手持ちの資料にはズェピアという名は無い。実のところかなり訳の分からない存在。

 次にミハイル=ロア=バルダムヨォン。三咲町で会った包帯男。
 
 アルクェイドの話だと二十七祖では無いらしいが、番外ってことは同等の力を持っていると考えていいだろう。
 
 ナイフを振り回しているだけだったが、ものすごい殺気を放ったりもしていたし油断は出来ない。

 最後にネロ・カオス。神族、魔族の両陣営が問答無用で滅殺しようとしているあたり、その危険性がうかがえる。

 はっきり言って、事態は横島の手に余る。

 ここで手伝っておけば、少なくともネロ・カオスは排除できる。

 他にも手伝ったほうが良くなることが多い。

 が、気になることが二つある。

「小竜姫さま、すこしいいですか?」

「ええ。なんですか?」

 小竜姫に許可をもらうと、横島は話し始める。

「まず、なんでネロ・カオスを探すんですか? ヒャクメが見つけたんじゃなかったんですか?」

 なんとなく答えがわかりつつも聞く。

「……ええと」

 小竜姫は言いにくそうに、少し口篭もる。

「……見失ったそうです」

 どうやら、ヒャクメはいつも通り役立たずだったようだ。

 横島はどこからか、そんなことないのねー、という幻聴が聞こえたような気がしたが、無視して次の質問をする。

「殲滅部隊とかいうのが出来るのっていつですか?」

「……あと、十日はかかります……」

「なるほど」

 横島とは思えないほど、感情の無い声で頷く。

 そして結論を出した。

「この仕事、下りさせてもらいます」

「……え?」

 横島は、呆然としている小竜姫や動揺している皆を放って、荷物を担いで立ち去った。





「おい、横島!」

 大声に、横島が振り向くと、そこには雪之丞がいた。

 おそらく横島が事務所を出てすぐに追ってきたのだろう。

「おまえ、どういうつもりだ!? 小竜姫様の頼みを断るなんて」

 雪之丞は横島を睨みつける。

 対して、横島は静かな目で雪之丞を見つめた。

「雪之丞……、ネロ・カオスってどんな奴だか知ってるか?」

 ちなみに横島はGSギルドの資料にのっていたのを覚えている。

「いや。まあとにかく吸血鬼の強い奴だろ」

「ああ、確かに吸血鬼の強い奴だな。世界的に倒すことが絶望視されてるくらい強いからな」

 死徒二十七祖でも十位以内は別格に強いらしい。そして、件のネロ・カオスはちょうど十番の二十七祖なのである。

「なに!?」

 雪之丞が驚愕の声を上げる。

 横島はできれば雪之丞には死徒に関わって欲しくなかったので、このまま説得しようとした。が、次の言葉を聞いてコケた。

「それは殴りがいがありそうだな!!」

 雪之丞はうれしそうに目を輝かせる。

 だてにバトルジャンキーなどと呼ばれてはいないということだろう。

「ん? なんで倒れてんだ、横島?」

「……いや、少し疲れててな」

「それで、何で断ったんだ? まさかネロって奴が強いから怖いとか言うなよ」

「…………あれ?」

 強い奴は怖い。それは横島にとって当たり前の感覚だ。
 
 どんな時でも、どんな妖魔と戦った時でも、……アシュタロスの時でもそうだった。

 だというのに、横島は普通に死徒という強大な存在に立ち向かおうとしていた。

「あれ?」

 それは横島のキャラではない。美神などの強い人間の後ろにいても泣き叫ぶようなのが横島なのである。

 過去の経験からいって、例外はある。

 女が絡んだ時だ。

 実に横島らしい理由で納得できる。

 女の色香に迷った時は暴走して恐怖など忘れているし、好きになった彼女を護りたくて護れなかった時には恐怖などよりもずっと強い想いによって前に進んだ。

 そして今回、横島が死徒に関わるのはアルトルージュの情報が欲しいからである。

 つまり、横島は……

「ち、違う! 俺はロリコンじゃない!! ロリコンじゃない!! ロリコンじゃない!! ロリコンじゃない!!」

「お、おい! いきなり、どうした!?」

 いきなり地面のアスファルトに頭を打ちつけ始めた横島を、雪之丞は慌てて止める。

「で、小竜姫様の頼みを断った理由は?」

「あー、簡単に言うとだな、殲滅部隊っていうのが出来るのに十日もかかるのが気に入らない」

 雪之丞はしばらく待つが、どれだけ経っても横島に続きは無い。

「……まさか、それだけか?」

「おう」

 えぐり込むような右コブシが横島の頬に突き刺さる。

「いや、待て。実は深い訳がある」

 口から血を吐きながら、さらに腕を振りかぶっている雪之丞を止める。

「ネロ・カオスほどの奴なら十日もあれば数百人は死ぬ。
 デタントの事情で人間界への干渉は簡単には出来ないとはいえ、被害が出ることが分かっておきながら十日というのは時間がかかりすぎる。
 俺は、見捨てられる人達がいるのが気に入らない」

「なるほどな……。横島……おまえ、ニセモノだな?」

「…………何でそーなるんだ!!」

「横島がこんな真面目なこと言うはずがねえ! うまく化けたようだが俺をだますことは出来ねえぜ!!」

 雪之丞の一喝と共に、横島の右頬に体重を乗せた左コブシが入る。

「こ、こ、このイカレバトルジャンキーが!! 人がせっかく真面目に説明してやったのに、この仕打ちは何だ!」

 横島の手から出た文殊に『滅』と入れてあるのは仕方ないことだろう。

「ふん。やっといつもの調子が出てきたじゃねえか」

「なんだと?」

「おまえはそうやってバカやってたほうが良いぜ。変に真面目に気負いやがって。おまえらしくない」

「雪之丞……」

 横島はゆっくりと深呼吸をして、落ち着くと、落ち着いて雪之丞をぶん殴った。

「なにしやがる!」

 抗議する雪之丞よりもずっと大声で横島は怒鳴り返す。

「それはこっちのセリフだ!! もっと穏便な方法でやれ!! っていうか絶対本気で殴ってただろ!!」

「??そんなことはないぞ!」

「今の間は何だ? それとあからさまに目をそらすな」

「それで、見捨てられる奴らがいるのが気に食わないんだったな」

 雪之丞は聞いていて可哀想になるくらい強引に話を変える。
 
 横島は一瞬不憫なものでも見るような目をして、話を戻すことにした。

「そうだ」

「だけどよ、その見捨てられる奴らを救うのが俺たちの仕事じゃないのか?」

 小竜姫もできることなら被害を最小限に食いとどめて欲しいと言っている。

「なるほど……。雪之丞……おまえ、????????ニセモノだな?」

「…………おい」

「雪之丞がそんな真っ当な人間みたいなこと言うはずが無い!」

「さっきの仕返しか、てめえ」

 雪之丞の額に青筋が浮かぶ。

「まあな。……で、俺もそれくらいは解ってる。……そっちは雪之丞や美神さんたちにまかせる。
 俺は……実は綺麗な姉ちゃんと約束が会ってな。こっちを助けにゃならないんだ」

 一見軽く言っているようだが、目が笑っていない。雪之丞が殴る前のように、酷く真面目で、どことなく陰気だ。

 そして、雪之丞は、ふと、思い出した。

 以前にも、横島が真面目になった時があるということを。

 それはルシオラという女性を救おうとした時。彼女が死んだ時。世界を選んだ時。

「……おまえ、またやっかいな女を好きになったのか?」

「……俺をどんな目で見てやがる」

「どうせその綺麗な姉ちゃんってのも吸血鬼かなんかだろ? おまえ、いきなり事件の中核に飛び込むのがうまいからな。もう今回の事件に関わってたりするのか?」

 大正解。

「……そんなことはないぞ!」

「間があったぞ。ついでに目をそらすな」

「いや、ほんとにネロ・カオスとは関わりないぞ(今のところは)」

「綺麗な姉ちゃんが吸血鬼だ、ってのは否定しないんだな」

「…………」

 沈黙は雄弁に肯定していた。

 雪之丞は深ーくため息をついた。ある意味慣れたお決まりの展開なのだが、精神的に酷く疲れた。

「もういい。かってに何でもやってろ。こっちは何とかする。あと??」

 雪之丞は、いや、横島の周りにいる者達全員が、かつて横島一人に大きな責任を持たせてしまった。
 
 世界なんてものを救わせてしまった。彼が本当に救いたかったのは別のものだというのに。

「いざとなったら、俺達に頼れ。一人で何とかしようとするなよ」

「ああ、わかってる」

 横島が頷くと、二人はどちらともなく別れた。





「横島さん、どうでした?」

 オキヌは聞くが、雪之丞は首を振った。

「あいつは……女のもとへ走った」

 雪之丞は明後日のほうを見ながら、一応嘘ではないことをのたまった。

「あいつは横島よ。どうせ、恐怖で逃げたのよ。そうとしか考えられないわ」

 美神は青筋立てながら言い放つ。

「それは非道い言いかたなワケ」

「横島さんは?何か考えがあったのよ?」

 エミと冥子は言った。二人とも最近は横島を一流のスイーパーとして認め始めている。それが美神を怒らせる理由でもあった。

 雪之丞は言い争う彼女達を見て、ひとりため息をついた。あの横島ですら真面目に動いているというのに、こっちの様子はどうだ。
 
 自分達は横島の力になってやらねばならないというのに。

「さて、どうするか……」

 雪之丞の頭を抱える日々が始まった。





 三咲町に着いた横島は、まずいことに気がついた。

 記憶にないだけではないかと、一縷の望みを託して、メモと携帯のメモリを探る。

 が、無い。

 アルクェイドと連絡を取る手段が、無い。

「しまったーっ!!」

 今後、自分達がどう動くかは打ち合わせしていたのだが、肝心の連絡先や、落ち合う場所を決めていないあたり、致命的に間が抜けている。

 どんなに真面目になろうとも、所詮は横島なのであった。









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