雪之丞は暗い道を進んでいた。道案内は角姿になった小竜姫がしてくれている。

 小言交じりだったが、それは来る前に行った大取物があったと考えれば比較的少なかった。

「なあ、小竜姫。まだ着かないのか?」

『もう少しというところです。もう少し落ち着いてはどうですか?』

「十分落ち着いてるよ。いや、本当にさっきのは悪かったって。反省してる」

『本当かどうか怪しい物ですが』

 小竜姫の冷たい言葉に雪之丞はため息を吐いた。

 警察との争いは自分のミス。それは分かっているのだが、ここまで言われると嫌になってしまう。

『それはそうと気をつけて下さい。すでに敵の根拠地です。いつ、何が起きてもおかしくはありません』

「分かってるって」

『私は香港の時のミスを繰り返さないようにと言っているのです。すべてに気を付け……』

小竜姫の言葉が止まる。

『雪之丞さん、前方です。恐らく距離は百メートルありません』

「あん?」

 そこは薄っすらと光った場所だった。

 中央には積み上げられた石が存在している。何かの祭壇であることは間違いない。

『これは最近作られた物のようですね』

「最近? こんな深い洞穴にか?」

『柳洞寺は付近の霊脈が集中する分岐点です。それこそ、この町だけではなく日本全体を見ても、ここまでの大きな霊脈は多くは存在しないでしょう』

 小竜姫の声色は冷たい。そして、居ても立っても居られなくなってか角から人間体へと戻った。

「おいおい、いいのかよ。あんたは妙神に縛られてる神だろ。香港よりは近いとは言っても、ここで活動して大丈夫なのか?」

「比較的厳しいかもしれません。ですが、私自身が見なければいけない物を見つけてしまいましたので」

 小竜姫は言うと積み上げられた石の祭壇に近づいていく。

 そして、近づいて見たものに小竜姫は驚きの表情を浮かべた。

「まさか、文珠!?」

「なんだって!?」

「そんな、こんな短期間に二人の文珠使い? 横島さんではない、もっと洗練された物」

 小竜姫の中に色々な考えが浮かんでいるようだった。

 それに雪之丞がため息を吐くと、石の祭壇に霊破砲を放つ。

 その衝撃で石の祭壇は大きく破壊された。

「な、なにをやっているんですか!!」

「うだうだ考えても仕方ないだろ。情報があるなら、まずはそれをもって確認することが先だ」

「そ、それはそうですけど」

 雪之丞の乱暴な行動だが、今回に限っては間違いだと言い切れないので何も言えなくなる。

「ですが、その文字を見てください」

 雪之丞が持った石には『封』の文字が浮かんでいた。

「おそらくは、ここに何かを封じるためのもの。だとすれば、それを破壊すれば事態は動くでしょうが、その結果は……」

「間違いなく悪くなるだろうな」

 その声に二人が視線を向ける。

 そこには青い鎧をつけた男性が立っていた。手には赤い槍を持っている。

「あーあ、あいつが封印してたのに。開放しちまうなんてさ」

「一体、何を封印してたのです!?」

「口止めされてないから、まあ良いか。アンリマユってやつさ。さて、鼠を潰しに来たんだが、流石にここでは死ぬわけには行かないんだ」

 青い騎士は背中を見せる。

「じゃあな。生きていたら、また会おうぜ」

 そういうと物凄い速度で走り去っていった。

 小竜姫はその言葉に一瞬考える。そして、ある可能性に思い至った。

「ここは脱出します。良いですね?」

「あ、ああ」

 否定の言葉を言わせないほどの迫力を出した小竜姫に雪之丞は大きくうなずく。

 そして、二人は全速力で逃げ出すことになった。






 セイバーとバーサーカーは一進一退の攻防を繰り広げていた。

 バーサーカーの暴風。それに対応するようなセイバーの烈風。まさしく、嵐のような攻防戦と言っても過言ではない。

 セイバーは魔力供給を少ないながらも受けている。一方でバーサーカーは最も望むべき状況と言ってもいい、一対一の戦い。

 英雄と英雄の戦い。実力の拮抗している相手との戦いは一瞬で決着がつくという話があるが、最低でも彼らには通用しないだろう。

 一瞬で決着がつくのは、その一撃が対応できないほど鋭い一撃だから。先の先、または後の先を取って一撃を当てるからだ。

 先の先を取った一撃を返せるだけの技量。それがセイバーにもバーサーカーにもある。

 セイバーとバーサーカー、二人の実力が拮抗するとすれば崩れるのは何処か?

 いつかは決定的なミスから、全てが崩れていく。そんな未来は見えない事は無い。

 だけど、短期的に考えて崩れるのは、その他要因からだと判断できる。

 それは、一番戦力の薄い存在。タマモの存在だった。

 単体ならば、それほど威力は無い魔力の嵐が柳洞寺の空を縦横無尽に駆け巡っていた。

 それを放っているのはキャスター。防御に回っているのはタマモである。

 最初の状況とは一変。タマモは一方的に防戦させられている。

 これが一時的な事ならば逆転の目は望めるが、これは完全な実力の差。

 タマモがやられるのは時間の問題になりつつある。

「この、手数だけ揃えたって」

 タマモの声に焦りが現れる。タマモ自身は隠そうとしているのだが、隠すという事がすでに弱点となり始めていた。

「ようやく捕らえたわ。ちょこまか動いて、目障りな子ぎつねさん」

 正確には捉えきれていない。魔力の中をタマモは必死に防戦し、魔力を逸らし、継戦をしている。

 ただし、悪あがきと言うところだ。

 横島がフリーだったならば、援護で気を逸らして巻き返しは図れただろう。

「まだまだ、これからよ」

 タマモの言葉も本当だ。まだ、力に余裕があるのは事実。

 それを振り絞れ、と言う反論はできる。だけど、それを振り絞ったところで相手は英霊になれるほどの経験が豊富な存在だ。

 ただし、キャスターはそれすらも考慮して、タマモの打つ手に対応している。

 最後に札切れになるのはタマモと言う公算だ。

 タマモも理解していた。

 だけど、それは一時的な事。アーチャーをセイバーが撃退すれば、キャスターを有利に相手にできる。

 そう考えて、一致した行動だったがバーサーカーの乱入で状況は全く変わってしまった。

 口の中で「これは負けた」とタマモは思わず呟いてしまう。

「ここで、一瞬の絶対な隙を見せるなんて甘いわね」

 そんなタマモの心境をキャスターは見逃さない。

 僅かなミス。それは命取りになる。

 相手が格上ならば、それは当然の話。

「や、やられる!?」

 放たれた無数の魔力奔流。それを防いだのは、緑色の石だった。

 現れた精霊石は魔力を受けて破裂し、放たれた魔力をかき消す。

「誰!?」

 その瞬間、柳洞寺の戦闘が止まった。

 乱入してきた存在にそこに居る人、英霊が注意を向けたのである。

「残念でござるが、そこの狐はやらせないでござる」

 キャスターの視線の先。山門の入り口に立っていたのは、一人の人影だった。

 夜という事で暗かったが、月明かりで照らされる。

「ったく、馬鹿犬。遅いわよ」

「自分の役割を果たせないような、女狐に言われたくないでござるよ」

 そこに居たのは背中にリュックを背負った一人の女性だった。

「美神除霊事務所所属にして、横島忠夫が一番弟子。犬塚シロ」

 シロは言うと、バーサーカーとアーチャーにも視線を向けた。

「これは、随分な乱戦でござるな」

 そういうと、人蹴りで横島の隣に立った。

「横島先生、遅くなりました」

「おう、凄い良いタイミングでの登場だったな」

「もっと早く到着する予定だったでござるが、先生の道具を回収してきたでござるよ」

 それと同時に一つの皮で出来たケースカバーを手渡す。

 その中には文珠が入っている。それも十二個も、だ。

「サンキュー、シロ。これで補充できた」

「拙者にできるのはこれくらいでござるよ」

 シロは相手を見る。シロの相手は決まっている。稀代の大魔術師だ。

「では、拙者はタマモを援護してくるでござる。先生もご武運を!」

 シロは言うと、キャスターへと向かう。

 その様子を見て、横島は思ってしまった。

 どうやって空中の敵を攻略するんやねん、と。

 次の瞬間、シロから飛び出したのは霊破砲だった。それも相当な高威力の物だ。

 それを両手を構えて、キャスターに向けて一発。それをキャスターは障壁で受け止めたようだが、遠目からでもキャスターの焦りは理解できる。

 ならば、アーチャーと決着を付けよう。

 だけど、それは一瞬だけの考えだった。上から別の何かが乱入してきたからだ。

 横島は慌てて後方に飛び退く。その瞬間、横島をかすめるように赤い一撃が地面に突き立った。

「やっぱり、お前は人間の中でも別格だな」

 そこには紅い槍を構えたランサーの姿がある。ここにきて、英霊のお替りときた。

 恐らくは彼も決着を付けに来たのだろう。

 五体の英霊が乱戦をする戦場。どんな冗談かと言わなければいけない状況。

 これはあかん、逃げねば・・・そんな考えが頭にちらついた時、ランサーは口元を釣り上げた。

「逃げようなんて考えるなよ。コソコソ隠れている奴を釣り上げてる最中なんだからよ」

 逃げるという手段はバレてた。ランサーが首で門の方を目を向けろとジェスチャーをする。

 それに横島は見ると、そこには袴をつけた、あの佐々木小次郎と名乗ったアサシンの姿があった。

 つまるところは・・・

「シロが来ることも想定内だったってわけか」

「ああ、これだけの大騒ぎをすれば迷子になって動き回ってた犬の嬢ちゃんも来ると思ったからな」

 横島は眉を動かす。

 一瞬浮かんだのはGSギルド。次に浮かんだのがオカルトGメンだ。

 何処かから情報が洩れているのか?

 だけど、それを打ち消す。だとすれば、横島やタマモの居場所はGメンもギルドも知っている。

 となると可能性としてはGS。同業者が裏にいる可能性と、神魔が裏にいる可能性が同じぐらい。

「お前、一体何を」

「知らねえ。好かない奴……俺のマスターが色々とやってんのさ。二度だぜ、二度。主替えさせられたのは」

 俺が無能って話になってくるだろ? と問いかけてくるランサー。

 それに頷くべきか、それとも苦笑いするべきか迷っているとランサーはニヤリと笑う。

「ついにコソコソと逃げ隠れしていた奴が出てきやがった」

 次の瞬間、境内の門が爆発をした。

「ふん、頭数だけ揃えて、我を待ち伏せとはな」

 そこに居たのは金で統一した鎧。金髪で赤目と言う、何処かの真祖の姫を思い出すような姿だ。

 男でなければ、だが。

 自信過剰、悪く言えば傲慢だと一発で分かるような声を上げた男は静かに周囲を見渡してくる。

「アーチャー!?」

 セイバーの声。それに横島は赤い方のアーチャーを見た。

 だが、こちらはまともに動いていない。何があった?

「どうしたんだ、セイバー?」

「彼は、第四回の聖杯戦争で呼び出された英雄です。その時はアーチャーと呼ばれてました」

 士郎の声に全員の視線が再びアーチャーに向かう。

「ふむ、なるほど。数が多いと思っていたが、過去の聖杯戦争の生き残りが参戦していたか」

 本堂の上に表れる黒い外套を着た男性。金と黒、二つの視線がぶつかる。

 両方が両方を見つめる。

 金色の鎧を付けた男は鼻を鳴らした。

「道化が……王の前で頭を下げぬか」

「道化は道化でも世界から道化を演じるように言われた存在だ。たかだか人間の王ごときに頭は下げられんよ。シュメールの王・ギルガメッシュ」

 その言葉に金色の男は冷たい視線を向けた。

 だが、彼はその視線に全く向けない。

 そこにあるのは同格の雰囲気であった。そう、恐らくは黒い法衣を着ている男は恐らくは魔族。いや、英霊の可能性も十分にある。

「良く言った、ここで終わらせようか。道化」

 ギルガメッシュと呼ばれた背後から無数の剣や槍が現れた。

 それは先ほどの男に狙いがつけられている。

 だけど、男性は全く身じろぎしない。それどころか、何もない処から剣を取り出した。

「ん? あれって」

 横島が一瞬、その剣に見覚えがあり言葉を漏らす

 だけど、それを否定した。持ったのは西洋剣、恐らくは見慣れているのも同じような意匠の物だからだ。

 西条輝彦が持っているジャスティスと言う剣ではないはず。

 そう思った次の瞬間、剣は射出された。

 道化と呼ばれた男が剣を振るい、次々と弾き、避け、そして叩き落す。そこに無駄な動きは全くない。

「ああ、めんどくさい」

 道化と呼ばれた男は言うと、向かってきた武器を殴り飛ばした。

「なっ!?」

 全員が唖然とする中、ギルガメッシュは冷静な表情になり見つめる。

「どうした、シュメールの王。その程度でメソポタミア文明を繁栄させたなどと言わないだろうな?」

 挑発にすら、彼は黙っている。背後には無数の宝具が浮かんだままだ。

 それを見る道化も黙っている。

「なるほど、面白い技だった。褒めてやるぞ、道化。人を楽しませるのには中々な腕前だ」

「なんだ、分かってしまったのか。まあ、こんな技は何度も通用するとは思ってないけどな」

「ふん、魔力の障壁を出して別方向に弾いただけの見世物。その程度しか出来ないのが、限界点のようだな」

 それに道化と呼ばれてた男が苦笑いをする。

 その様子を全員は呆然と見ていた。

「アーチャー、あれって」

「ああ、間違いない。サーヴァントだ」

 凛の言葉に真剣な瞳で返す。

 いや、彼らだけではない。この場にいるマスター、英霊の両方が成り行きを見守るしかない。

 横島もこれを機とばかりに、セイバーや士郎。タマモとシロと合流していた。

「厄介なことになったな、これ」

 横島の言葉はシロ以外の全員の意見、そのままだった。

 大決戦。そこに乱入してきたランサー、アサシン。そして金色の英霊に黒衣の英霊。

 勢力図が一新した。

 その時、黒衣の英雄・・・道化と呼ばれた英霊の視線が横島に向く。

「横島忠夫、撤退すると言うのであれば撤退していいぞ。お前のこの場所での役割は終わったからな」

 名前が知られている?

 横島は厳しい顔をした。

「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかな」

「ああ、ついでだ。そこのセイバーとそのマスターも連れてけ。英霊が一体減ろうが、俺のやろうとしていることに変更はないからな」

 黒衣の英霊の言葉に全員が固まる。

「あなた、一体何者!? こんなに英霊が呼び出される事例なんか、あり得ない」

「それは違うな。あり得ないはもう無い。あり得てしまったんだからな」

 黒衣の英霊は腕を組む。

「俺が何者か、か。俺は英霊だよ、そのままの意味で。クラスはアヴェンジャーだ」

「アヴェンジャー? 報復者、復讐者っていう意味か」

「いえ、聖杯戦争で呼び出される可能性がある座よ。以前に一度、呼び出されているわ」

 イリヤがバーサーカーを引き連れて現れる。

 その様子にアヴェンジャーは難しい視線を向けた。

「なるほど。面白いな、この世界は。黒も白も使わずとも聖杯戦争は終結させよう」

「どういう事さ。白と黒の聖杯?」

 士郎の言葉に黒衣の英雄は笑った。

「ああ、そうか。なるほど、別に構わんよ。俺からすれば大したことは無い」

「なんだ、その含ませっぷり」

「知ろうと知るまいと大したことはないさ。まあ、単純に言えることはお前らは死ぬ。それだけだ」

 それにキャスターを含めた全ての英霊、マスターが構える。タマモ、シロも同じだ。

「なら、試してみる? やっちゃえ、バーサーカー!!」

 高々なる大声。イリヤが命令を下すと、狂戦士は走り出す。

 敵が何であろうと薙ぎ払うのみ。彼の言いたいのはそう言う事だろう。

 振りおろされる石剣。それをアヴェンジャーは軽く避けた。

 そのまま、追撃に入るバーサーカー。次の瞬間、バーサーカーの足が地面に沈む。

「単純な馬鹿は好きだよ、バーサーカー。こんな初歩的なトラップにかかってくれるんだからな」

 そのまま、手が向けられる。そこにあった白い光、それを見た瞬間、横島はそれが何か理解した。

「くらえ!!」

「俺の後ろに下がれ!!」

 横島が前に出ると、先ほど渡された文珠を取り出す。出したのは四つ。

 制御できる四つの文字で、紡ぐ文字は『絶』『対』『防』『御』

 白い光と共に大きな爆音。爆発によって生み出された暴風のような魔力はその場にいた全てを襲った。

「あ、あかん」

 防ぎきった、その先。そこには石畳すら失い、寺の痕跡が消えた境内と何とか防いだアーチャーと凛。

 平然と立つランサーとアサシン、ギルガメッシュ。

 そして、上半身が無くなったバーサーカーとアヴェンジャーが居た。

「う、うそ」

 イリヤが呆然とする。バーサーカーはピクリとも動かない。

 いや、回復が始まっている。

「八つの命が今ので削られるなんて」

「ふむ、少し威力を加減しすぎたかな?」

「だ、断末魔砲なんか聞いてないぞ!!!」

 横島が怒鳴る。それにアヴェンジャーが視線を向けた。

「だから、撤退するなら撤退しろと言った。お前にはまだ死なれるわけにはいかんから、手加減したらバーサーカーも二体のアーチャーも生き残っただろうが」

 そのやり取りに士郎は生唾を飲み込んだ。

 横島が撤退を決意してれば、恐らくはイリヤも凛も死んでいたに違いない。

 だけど、それは簡単に倒せると言う自信がある事に他ならない。

「馬鹿にしてるわね、彼」

「全くでござる。向こうの攻撃を防がれて、悔しいのでござろうが」

 シロとタマモの言葉にセイバーが首を振る。

「いえ、彼はこちらなど歯牙にかけてません。むしろ、どのように手早く倒すかを考えて、ミスをしたと言う事でしょう」

「どういうことだ、セイバー?」

「あれだけの攻撃がいつでも、何処でもできるのであれば我々に勝ち目はありません」

 チラリとランサーやアサシンを見る。

「ならば、何故にランサーやアサシンを残しているのでしょう。あの攻撃に致命的な欠陥があるからだと思われます」

「正解だ、セイバー。まあ、ここまで明らかにヒントを与えたら分かるだろうな」

「ならば、今の貴方なら私やアーチャーでも戦いになると言うことです」

 背後からアーチャーが現れる。手に持っていたのは愛用の両手剣。

 それを片手で受け止めた。

「何!?」

「そうだな、正解に近いところまで来てる。が」

 アーチャーが弾き飛ばされた。次の瞬間、無数の魔力の塊が嵐のごとくアーチャーを襲う。

「別にあの攻撃だけが、俺の攻撃じゃない。むしろ、あれは苦手な類だからな」

 両手剣で何とかはじいていくが、剣が破壊された。次の瞬間、嵐に飲み込まれる。

「ああ、そうそう」

 ギルガメッシュ視線を向ける。

「背後、気をつけろよ」

「何!?」

 ギルガメッシュが後ろを向いたとき、そこには黒い何かがあった。

 そして、それはギルガメッシュに対して何かをさせることなく飲み込んだ。

「まあ、これで厄介な奴を一体目というところかな」

「まさか、これが目的で先ほどの攻撃を!?」

 バーサーカーの攻撃に二手目、三手目が隠されている。

 こういったのが一番強い。

「そういえば、キャスターは?」

 タマモの言葉にアヴェンジャーが笑う。

「奴ならとっくに逃げたぞ。逃げ足だけは早い奴だとは思わないか?」

 事態の推移を見るのは早い。共闘関係を結んでいたアーチャーを見捨てて逃げるほどだから、彼女からすれば今回の戦いは勝ち目がないと見たのだろう。

 事実、当然出てきた圧倒的な力を持つ王は敗北した。

 ギリシャの大英雄は敗北寸前。相手にはアサシン、ランサーと言う札があり、こちらの戦力はセイバーのみ。

 アーチャー、バーサーカーと協力して撃退できるか?

 否、それはまず無理だ。アーチャーと手を組めるとは思わない。バーサーカーのマスターとは手を組めても、それでも戦力差は圧倒的不利。

 撤退して態勢を立て直すのもありだが、戦力の当てがない。

「セイバー、あの黒で統一した奴を足止めできるか?」

 できることは一か八か、シロとタマモの二人と協力してアサシンとランサーを倒す。

 可能性は二割以下。文珠を全部使いきっての話だ。

 後先は考えない。だけど、もう一つの懸念は黒い影だ。

「出来るといえば出来ます。ただ、私も油断をすればバーサーカーの二の舞になりかねません」

 回復したバーサーカーが立ち上がる。少し離れた場所で道化どころか、切り札になってしまった男は立っていた。

 バーサーカーと視線が合う。厳しい表情だ。

「逃げるしかない」

 横島は決断する。だけど、それには一瞬の隙が必要だ。

「バーサーカー!!」

 イリヤの声にバーサーカーは一歩足を前に進めた。

 背中は大きい。大英雄として、目の前の化け物に対抗しようとしている。

 だけど、それ以上は動こうとしなかった。

「逃げろって言ってるの?」

 タマモの言葉より前に横島は逃げ道を探っていた。

「遠坂、一時共闘だ。ここで死ぬわけには行かないだろ!!」

 士郎が声を上げる。

「分かったわ。それしかないみたい、出来る?」

「当然だ」

 アーチャーが黒い弓を取り出した。それに全員が構える。

 逃げるだけでも、恐らくは可能性は五割。

 同時に恐らくはバーサーカー、セイバー、アーチャーのうち二体は脱落するだろう。

 それでも逃げ出さなければいけない。そう考えたとき、空中に異空間が現れた。

 それは道化の直上。一瞬の出来事で流石の彼も一瞬のラグが出来た。

 その穴から出てきたのは、見覚えがある人間だった。

「雪之丞!?」

 タマモや横島の驚きを外目に黒い男は雪之丞に蹴り飛ばされる。

「なっ!?」

 ランサーやアサシンの驚き。それどころか、態勢を立て直す間もなく道化はさらに追い打ちの顔面を強打されていた。

 そして大きく飛び下がり、その間を利用しての連続霊波砲。雪之丞の必勝パターンだ。

「今です!! 集合してください!!」

 ふと見るとランサーが槍を弾き飛ばされていた。雪之丞へ攻撃を仕掛けようとして、第二弾の伏兵が現れたのだ。

「小竜姫様!?」

「急いでください、アンリ・マユが来ます!!」

 黒い何かはバーサーカーを取り込もうとする。

 バーサーカーはそれに抵抗するが、胴体の半分がすでに飲み込まれてしまっていた。

「逃がすか!!」

 突っ込んでくるランサー、そしてアサシン。それを防いだのはバーサーカーが投げた石剣だった。

「バーサーカー!!」

 イリヤの叫び。雪之丞がバーサーカーの異変に付け込んで、撤退に成功した。

 アーチャーと凛も合流する。横島が集合したのを確認すると、バーサーカーと一瞬だけ視線が合う。

 その目はイリヤスフィールを見ていた。

 それに横島は苦い顔をしながら、『撤』『退』の文珠を発動する。ランサーが槍を投げるのと、文珠が発動するのが同時。

 いや、若干文珠の方が早い。槍が突き立った場所には誰も居なかった。

「ちっ、アーチャーを逃がしたか。悪いな」

「いや、構わん。まずは上々と言うところだろう。ウロチョロする金ぴかを消せて、厄介なバーサーカーも居なくなった」

「それでも、セイバーやアーチャーがいる」

「まあな。セイバーは厄介だが、もう状況は覆せないさ。横島忠夫以外はな」

 ランサーはそれに疑問を持った。

「あの男に随分とお熱だな。そっち関係が趣味か?」

 その答えに無言で返す。

 アサシンもランサーもそのやり取りに慣れた。

「そういえば、さっきの黒い奴は?」

「取り除いた。今は英霊を土産に黒の聖杯に戻ってるだろう」

「ちっ、話を聞くだけでイライラするぜ。こんな詰まらない戦いに巻き込まれたお前を恨むべきだろうが、それ以上に聖杯戦争と別の場所で動いてる事態が一番憎いな」

 ランサーの言葉にアサシンは隣に立つ。

「それで、どうする。アヴェンジャー?」

「宣戦布告はした。後は奴らがどう動くかだけだ。最悪は黒の聖杯は俺たちの手で片づけなければ行けないかもな」

 そういうと黒衣の男は柳洞寺跡地から消える。

「やっぱり、好きに慣れないな。あいつは」

「なら、寝返りをすれば良い。喜々として受け入れるぞ、あいつは」

「馬鹿を言え。セイバーにアーチャー、横島忠夫と言う獲物は残ってるんだ。やるとすりゃ、それからだよ」

「そうだな。女狐と言う獲物は残ってたか。中々に楽しめそうではあるな」

 アサシンとランサーも口元に笑みを浮かべる。

 そして、彼らも姿を消した。

 残されたのは完全に崩壊した柳洞寺。それがこの世界の聖杯戦争を現しているようだった。





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